一億火の玉ならぬ「一億総活躍社会」を掲げて長期政権への道をひた走り、いまや党内に敵なしの安倍晋三・首相に唯一人、真っ向から異を唱えた若き政治家がいる。「将来の総理・総裁候補」の呼び声が高い小泉進次郎氏だ。
現在34歳。10月の内閣改造で入閣していれば戦後最年少大臣の記録を塗り替えるはずだった。事実、官邸からは改造人事の目玉として入閣説が流れたが、進次郎氏は先手を打った。正式に就任を要請される前に、
「大臣やりたい人はいっぱいいるでしょ。僕には当選回数も年齢も足りない。まだ雑巾掛けの期間がある」
そう入閣拒否を宣言し、安倍首相とはっきり距離を置く姿勢を示したのだ。
「この若造めが」──以来、官邸内の安倍側近たちの彼を見る目が険しくなった。その表われが今回の人事である。
安倍首相は進次郎氏を2年間務めた内閣府の復興政務官から外し、自民党農林部会長に起用した。党内ではこれが「大臣を蹴った報復」「進次郎イジメの始まり」とみられている。政治ジャーナリストの藤本順一氏が指摘する。
「農業分野はTPP(環太平洋経済連携協定)の基本合意で野菜をはじめ多くの品目で関税撤廃が決まり、農業団体は『安倍政権に裏切られた』と怒っている。農林部会長は党の農業政策の責任者で、反発する農業団体からの批判の矢面に立たなければならない。
安倍総理が進次郎氏を復興副大臣に昇格させたなら順当だったが、わざわざ畑違いの農林部会長に据えたのは自分の意のままに動かないなら、『火中の栗を拾ってみろ』というに等しい」
進次郎氏のこれまでの党務歴を見ると、農水分野の経験はない。農業政策のシロウトに、ウルサ型が多い反TPPの農水族議員や農業団体と渡り合えというのだから適材適所ではないことは間違いない。
本人がこの人事について「自分でも予想外の立場。真価が問われる」と語ったことが、驚きと戸惑いを物語っている。官邸筋は冷ややかないい方をした。
「雑巾掛けがしたいというから、掃除のしがいがあるポストを用意した。総理の親心だろう」
それだけではない。実は、古巣の復興庁からもハブられていた。今回の内閣改造にあたって、「官邸では進次郎氏の復興副大臣への昇格も検討されたが、彼とそりの合わない復興庁幹部が官邸に、『小泉政務官の被災地訪問は必ずしも現地では喜ばれているわけではない』と内々に報告して追い出しにかかった」(自民党幹部)というのである。
こうして長年手がけた震災復興担当を追われた。新任の農林部会長にTPP批判を沈静化させる役割は荷が重い。安倍首相にしてみれば、失敗して火だるまになる可能性が高いことは百も承知で、「若造のお手並み拝見」ということのようなのだ。
※週刊ポスト2015年11月6日号