その本の表紙に写るふたりの笑顔は、50年連れ添った夫婦ならではのいたわりと愛情がにじみ出ていた。
10月23日、声優・大山のぶ代(82才)の夫・砂川啓介(78才)が著書『娘になった妻、のぶ代へ』(双葉社)を出版した。5月に大山の認知症を公表した砂川は、同書で、病の発症から現在までの2700日におよぶ介護模様に加え、大山との夫婦仲についても包み隠さずに綴っている。
おしどり夫婦といわれたふたりだが、同書では40年にわたりセックスレスだったことが明かされた。最初の妊娠が死産で終わり、1972年に生まれた長女・絵梨加を生後3か月で亡くしたことがきっかけだった。
《実は、僕たちは娘の絵梨加を亡くして以来、今日に至るまでずっと、寝室を別にしている。そう、いわゆる“夫婦生活”がまったく存在しなかったということだ。お腹に宿した二つの命を失ったカミさんは、妊娠恐怖症──つまりセックスを怖がるようになった》(『娘になった妻、のぶ代へ』より。以下《》内同)
自分はもう夫の子供を産むことができない…。そう思った大山は、砂川に対し、「他の女性と浮気してもいいわよ」と告げたこともあったという。だが、体が触れあわなくとも、この夫婦の絆が切れることはなかった。
2012年に大山が認知症を発症し、5分前のことを忘れ、徘徊をするようになっても、砂川は懸命に妻を支えた。大山の排泄処理も彼の日課だった。大山はトイレの使い方を忘れ、ところかまわず粗相してしまう。大便をつかんだ手でベッドやシーツを触り、そのたびに砂川が洗った。
悩んだ末に、大山には大人用おむつをはいてもらうことにした。だが、彼女はおむつに出した排泄物もまた、手で触ろうとするのだった。衣服を汚した大山を風呂に入れて体を洗う作業は、傘寿を控える砂川にとって重労働だった。
医師からは認知症の進行を遅らせる薬を複数処方されていたが、何度説明しても大山はのみ方を忘れてしまう。砂川は声を荒らげ、そのたびに自己嫌悪に陥った。心身共に追い詰められ、酒の量も増えた。
《「認知症妻を抱えた夫が、心中を図った」。このようなニュースが流れると、思わずハッとして、食い入るように画面を見つめてしまう》
それでも砂川には、妻を施設に入れるという選択肢はなかった。彼を支えていたものは、やはり大山への愛に他ならない。
《「おやすみなさい、啓介さん」。こういうと両手を大きく広げて、あのドラえもんのような笑顔で僕にハグを求めるカミさん。(中略)結婚から半世紀経った今になって、毎晩ギュッと夫婦で抱きしめ合うようになるなんて。この年になって初めて、夫婦のぬくもりを今、痛切に感じている》
微笑みながら抱擁を求める大山に、砂川は娘の姿を見るのだという。
「長女が夭折し、子供を持つ夢が叶わなかった砂川さん夫婦ですが、“代わりに今、妻が子供になって自分の元に来てくれたんだ”って。なんと深い夫婦愛でしょうか」(前出・芸能関係者)
※女性セブン2015年11月12日号