先日行われたプロ野球のドラフト会議では、マスコミから「即戦力」という単語を冠された数多くの選手が球団から指名を受けたが、実際に彼らが一人前になるかどうかは神のみぞ知るところだ。一般的には、“一人前”といえば「成人を迎える20歳」という認識だろうが、「稼ぎのない学生は一人前ではない」という主張も肯ける。「一人前になるまで」という約束の養育費は、いつまで払えばいいのか? 一体いつからが「一人前」なのか。弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
15年前に離婚。息子の養育費は彼が“一人前”になるまで毎月10万円を支払うことで合意。なので息子が20歳を迎えた段階で支払いを止めたのですが、元妻は大学を卒業し、就職してからが“一人前”だと主張しています。法律的に“一人前”とは20歳か、それとも就職してからなのか、どちらなのですか。
【回答】
離婚に際し、子供の養育費を決めるのは子が親から独立して生計を営めないからです。このような状態の子を「未成熟児」といいます。未成熟児と未成年は、別の概念です。20歳までは未成年ですが、中卒や高卒で就職して自活すれば、未成年者であっても未成熟児ではなく、もはや養育費の必要はありません。
離婚のとき、子供は小さくて将来のことがわからなくても、成人に達すれば自活できると考えるのが普通です。「一人前になるまで」と約束したのならば、成人までという合意があったように思います。貴方の見解はもっともです。
最近は大学進学率が高くなっており、大卒までと合意する場合も少なくありません。元妻は「一人前」をそのように解釈したのでしょうが、大卒までとの明確な合意がない限り、成人になることが区切りになると思います。
しかし、元妻と成人までと約束しても、成人に達してもなお、子供が未成熟児なら、親の養育義務が問題になり、成人である子から請求を受ける事態もあり得ます。
例えば、大学在学中の成人である子が父親に養育費の支払いを請求した事件で、家庭裁判所は潜在的な労働能力があるとして認めなかったのですが、学費・生活費の不足の経緯や、利用できる奨学金制度、アルバイト収入、親の資金力などを考慮して判断すべきであるとして、再審理を命じた高裁判決もあります。
また、この他、離婚後に元妻が再婚し、再婚相手と子供が養子縁組するなど長い期間には、いろいろと事情も変わってきます。そうした場合に、従来約束していた養育費の条件では不合理になったときなどには、家庭裁判所の許可を得て変更が可能です。
なんにせよ、離婚時の合意だけを押し通せるわけではありません。
※週刊ポスト2015年11月6日号