中国で最大の出版業者団体、中国出版協会が10月、国際出版連合に加盟したことが分かった。これまで中国政府の言論弾圧などの理由で、同協会の加盟は認められなかったが、今後は中国語の翻訳本の選定で、中国側から民主化問題やチベットなどのテーマに関する本の出版に圧力がかかる可能性が強い。米紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じた。
国際出版連合は1896年にパリで創立された出版業者の国際団体。個人加盟でなく、日本からは日本書籍出版協会 (書協) が加盟しているなど、各国の60以上の代表的な出版業者団体が登録されている。本部はスイスのチューリッヒ。
中国は今年5月の米国書籍展示会に中国からの参加が認められており、10月のジュネーブでの同連合総会で加盟が認められた。その理由として、「中国は現在、米国に次ぐ世界第二の出版市場」というのが大きな要素となっている。
しかし、同連合は出版の自由などを謳っており、中国の言論弾圧を懸念する向きが多い。それを象徴するように、中国の加盟について、米国の代表的な12の出版業者団体が声明を発表し、米国で出版された書籍の中国語版を出版する際、何らの制約も受けないなどと主張し、暗に中国の言論弾圧をけん制した。
中国では現在、1989年の天安門事件など民主化運動に関する本や、中国による宗教弾圧を受けているチベットなどのテーマ、中国の最高指導者のゴシップや腐敗問題など政治色が強い書籍の出版は認められていない。
同紙によると、この懸念を裏付けるように、香港では多数の発禁本が出版、販売されているが、中国共産党指導部はこのほど、香港の出版市場の7割を独占し、14店舗もの書店を経営するグループ企業「聯合出版」に対して、中国本土で発禁処分を受けた書籍を書店で販売することを止めるように圧力をかけている。
これまで、香港を旅行する中国人観光客は発禁本をお土産にして、持ち帰っていたが、最近、税関での検閲が厳しくなっているという。このため、発禁本を多数扱っている香港の「新世紀出版社」は売り上げが約9割も落ち込んでおり、倒産間際と伝えられているほどだ。
新聞社の香港支局長も務めたことのあるジャーナリストの相馬勝氏は次のように解説する。
「習近平政権は昨年11月に中華人民共和国反スパイ法を施行したり、今年10月にも中国共産党規律処分条例案を発表しており、政治的な締め付けを強めている。香港での発禁本の販売への規制強化もその一環とみられるだけに、香港での報道の自由や表現の自由、出版の自由は今後なし崩し的に厳しい制限措置を受けることになろう」