新聞には数多の広告が掲載されているが、そのなかで最も“日陰”の存在といえるのが「三行広告」だろう。しかしその短いメッセージに、国民的漫画家の「遺骨」を巡る事件に三行広告がかかわっていた。
1992年5月27日、『サザエさん』の作者・長谷川町子さんが72歳でこの世を去った。その遺産は約30億円と報じられ、大きな話題になった。その翌年の3月25日、遺族に脅迫状が送り付けられた。脅迫状にはこう記されていた。
「遺骨を盗んだ。返してほしければ金を出せ」
犯人は数千万円を要求したとされ、取引に応じるなら新聞広告を出すよう指示したという。この要求に対応したのが姉の毬子(まりこ)さん。彼女は警視庁と相談し、3月31日の読売新聞・尋ね人欄にこんな広告を出した。
〈原揚子さん 至急連絡下さい まり子〉
詳細は明らかにされていないが、この文面は原(払う)、揚子(用意)の意味が隠されているのではないかと報じられた。ただ出稿後も、犯人からは連絡がなかった。
事態が進展したのは翌4月だった。「渋谷駅のコインロッカーに安置している」と書かれた便箋と、ロッカーの鍵が同封された速達郵便が送られ、遺骨は無事に遺族のもとに戻った。犯人は捕まらず、未解決事件になっている。
※週刊ポスト2015年11月13日号