「血圧目標を低くすることで、高齢者における循環器系の合併症や死亡のリスクが劇的に下がる」
研究機関らしからぬセンセーショナルな見出しのプレスリリースが、今年9月11日、アメリカの国立心肺血液研究所から発表された。同研究所は米研究機関の最高権威である国立衛生研究所(NIH)の一部門だ。
発表から約2か月、この調査結果はアメリカのみならず、海を越えた日本の診療現場でも、大きな混乱を招いている。というのも、現在日本では血圧を「140(mmHg)未満」に抑えるべきとされているのに対し、なんと「120未満」に下げたほうがいいという衝撃的なデータが示されたからだ。
研究は、50歳以上の、心臓病や腎臓病などを発症する恐れのある高血圧患者約9400人を対象として、2010年から2013年まで実施された。血圧を抑えるために降圧剤などを利用し、血圧を120未満に抑えたグループと140未満に抑えたグループを比較したところ、前者は後者より、心臓発作や脳卒中の発生率が3分の1減り、死亡リスクは4分の1下がったというのだ。
これまで血圧120~140の間の健康リスクに関しては、実証的なデータが存在しなかったが、今回初めて示されたのである。
発表を受け、日本のメディアはさっそく、
「最高血圧120以下を目指せ 米研究所の研究報告」(共同通信9月13日付)
「高血圧治療 目標辛くなる? 米国立研究所『120未満』を提唱 現行は『140未満』」(日経新聞10月25日付)
などの見出しで、日本のガイドラインにも影響を及ぼす可能性を示唆した。ガイドラインを作成する日本高血圧学会理事の長谷部直幸氏は、本誌の取材に対してこういう。
「確かに驚くべき結果ですが、予備解析結果が速報として発表されたに過ぎない段階ですので、軽々に論評すべきではないと思っております。詳細なデータが正式に論文として公表された時点で、議論は深まると思いますので、医療関係者の方々には、慎重な判断が求められることを強調しております。
その上で、50歳以上、約9400人の高血圧患者を対象とした大規模臨床試験ですので、より厳格な降圧目標の達成を支持する今回の結果が、今後のガイドラインの目標値設定に大きなインパクトをもたらす可能性はあります」
すぐに見直しをするわけではないが、今回の調査が「驚くべき結果」であり、今後のガイドライン見直しに向けた「大きなインパクト」となることを認めた。
※週刊ポスト2015年11月13日号