アベノミクスで株価が一本調子で上昇していた2年前、賭け事好きで知られる麻生太郎・副総理兼財務相はこう胸を張った。
「『株価が上がっても株は持ってないので関係ない』という人もいるが、年金は株式の運用で成り立っている。これだけ株価が上がれば、必ず年金の運用益が出てくる」
安倍政権はその後、国民の年金積立金をどんどん株投資に注ぎこんだ。運用総額はいまや約62兆円にのぼる。
素人ギャンブラーは勝ったときは気が大きくなる。さる7月、年金運用を担当する国の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2014年度の運用益が約15兆2922億円に達したと大々的に発表した。“言ったとおりだろう”というわけだ。
ところが、である。それからわずか3か月間で運用益の半分、7兆9000億円の年金資金が失われた可能性が高いことを、政府は頬被りして国民に知らせていない。明らかにしたのは野村證券のチーフ財政アナリストの試算だ。
日経平均株価は今年6月にバブル後最高値(2万868円)をつけたが、7月の上海株式市場の急落(チャイナ・ショック)をきっかけにした世界同時株安で9月には1万7000円台まで14%下がった。
同アナリストはGPIFの資料をもとに、7~9月の3か月間で国内株約4.3兆円、海外株約3.7兆円の損失を出したと試算している(ハフィントンポスト10月23日付)。
この試算を支持する声は、兜町を中心に広がっている。運用会社でファンドマネージャーを務めた金融コンサルタント・近藤駿介氏も、「私の計算でも年金損失額は同様の額。プロであれば誰でも同じ数字になるはずです」という。
“それでも運用益はまだ半分残っているじゃないか”と楽観するのは間違っている。失われた7.9兆円は1年間の年金支給総額(2014年度は年間約54兆円)の2割弱にも相当する。
国民の老後の生活を支えるカネが株式市場に大量投資された結果、株価の変動で瞬時に失われる危険が高まっていることをはっきり示したからだ。
厚生労働省年金局の運用担当者は「年金運用は長期スパンで被保険者(国民)のための運用を行なっている。短期の結果で一喜一憂すべきではない」と説明する。
※週刊ポスト2015年11月13日号