今年9月にアメリカの国立心肺血液研究所が発表した研究結果が波紋を広げている。現在日本では血圧を「140(mmHg)」に抑えるべきとされているのに対し、「120未満」が推奨だというのだ。この調査結果に対し、『「血圧147」で薬は飲むな』の著者で東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一氏は、今回の研究結果によって、血圧ガイドラインが早急に見直しされ、降圧剤の過剰投与が進むことを懸念する。
「降圧剤の医薬品添付文書には、脳梗塞の危険性が明記されています。日本人を対象とした降圧剤の試験や住民を追跡した複数の研究でも、降圧剤で血圧を20以上下げた群は、20未満の低下群に比べて、脳梗塞発症率が高くなり、総死亡率が約1.5倍から5倍になっています。
また、高血圧の原因は腎障害や糖尿病、副腎皮質腫瘍など他の疾患によるものであるケースも多いのですが、日本では原因を調べずに『本態性高血圧』と一括りに診断して降圧剤による治療を行ない、病状を悪化させるケースもあります」
血圧を下げれば心臓病や腎臓病のリスクは下がるかもしれないが、一方で別のリスクを呼び込んでしまうこともある。
アメリカの医師などを中心とした研究者グループは、2006年に35万人を対象に血圧と死亡原因の関係を調べた大規模調査を実施している。それによると、高血圧による死亡原因の1は脳卒中や心血管障害だったが、血圧が低すぎると、転倒・転落、自動車事故、自殺などの死亡率が上昇する傾向が見られた。
血圧が低すぎると脳の神経細胞に十分な酸素や栄養分が送られなくなり、思考や判断力が低下したことが原因ではないかと考えられている。
※週刊ポスト2015年11月13日号