9月6日、神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で、2か月の間に3人の入居者がベランダから転落死していたことが発覚した。
施設では、暴力や虐待が常態化していたとされ、転落死に関与した疑いの強い職員がいることも報じられた。入居者の家族は、職員が頭を叩くなど暴力をふるう様子を収めたビデオ映像を公開。事件後の調査で、同じ経営母体が運営する千葉県の老人ホームでも転落死亡事故が起きていたことがわかるなど、次から次へと、“塀の中の地獄”が明るみに出た。
それにもかかわらず、「第三者委員会が調査中です」(親会社である株式会社メッセージ経営企画部)と、施設の対応は遅々として進まず、施設、職員への処分もいまだに決まっていない。
川崎市の高齢者事業推進課は立ち入り検査後、「結論は厚生労働省と相談したい」と述べたが、それももう1か月も前のこと。こうしている間にも似たような事件が起きる可能性があるし、今現在も起こっているかもしれない──。
「なぜ、あんなことが起こってしまったのか、原因に目を向けなければいけない」と話すのは、介護事情に詳しい健康社会学者の河合薫さんだ。
「介護現場で働く人たちは、私たちが考えている以上に過酷な現場で疲弊しています。もちろん、どんなに疲弊していたとしても、虐待や暴力が認められるわけではありませんが、介護従事者の労働環境についても広く知られるべきです」
介護業界に関する数字を見ると、河合さんの言うことはたしかに裏づけられる。
ホームヘルパーや介護職員の平均月収は、全産業よりも10万円ほど安く、21万円程度。手取りはもっと低くなり、14万~15万円になることもある。離職率も約17%と全産業の平均を上回り、このままでは10年後、約38万人の介護職員が足りないとも予測されている。介護保険の負担が1割から2割へと上がり、介護を受ける側にも負担が強いられている。その一方で、慢性的な人手不足のなか、安倍政権になって介護報酬は引き下げられ、働く人たちの環境は悪化するばかり。安い賃金で働く職員たちは不安やストレスを抱えている。
「介護施設は、軒並み大幅な赤字。職員の賃金が上がるはずがありません。ボーナスもないところがほとんどで、介護は24時間ですから、シフト勤務で休みを取るのも難しい。そうした労働環境の中で、職員は“いつか自分も、同じように虐待行為をしてしまうかもしれない…”という危機感を持って仕事をしているのです」(河合さん)
※女性セブン2015年11月19日号