てんかんは、大脳の神経細胞が過剰に興奮することで、様々な発作を繰り返す病気だ。乳児から思春期までの発症が多いが、働き盛りで発症することもある。また、高齢者は脳卒中やアルツハイマー病での発症も多い。国や人種を問わず、それぞれ人口の約1%に発症し、日本での患者数は約100万人である。
てんかんの症状としては、全身けいれん発作が最多と思われがちだが実際は違う。一番多いのは、けいれんがなくても意識がない発作だ。気付かれにくいので、事故を起こしかねない。東北大学病院てんかん科の中里信和教授に話を聞いた。
「全身けいれんが消えたら、てんかんが治ったと思う患者や医師がいますが、それは大間違いです。一番多いのは複雑部分発作なのです。意識がなくなり、1点を凝視し、動作が止まり、手をモゾモゾ、口をクチュクチュさせるなどの自動動作を示す発作です。仕事中に何かを持ったまま動かなくなり、『電池切れ』といったあだ名がついたり、交通事故を何回も繰り返す人は、この発作の可能性が高いと思います」
複雑部分発作の複雑とは、意識がないこと、部分とは脳の一部だけが興奮することを意味し、側頭葉(そくとうよう)てんかんが、その代表だ。これは脳の深部で記憶や情動を司る海馬(かいば)が萎縮し、硬くなることが原因となる。40~50代で発症するてんかんは、海馬のそばにある扁桃体(へんとうたい)が肥大している場合もあるが、発作は海馬の場合と、ほぼ同じだ。
外来診断だけで発作が消えることも多いが、1年たっても発作が残っている場合、東北大学病院てんかん科では、2週間の入院検査を薦めている。入院には他の医師からの紹介状が必須だ。
4日間は頭に脳波を計る電極をつけたまま、昼も夜も天井につけられたカメラで患者を撮影する。
「脳波とカメラで、発作の瞬間をとらえます。専門の検査技師が全時間をくまなく解析し、小さい発作も見つけ出します。4日目以降は、画像診断や心理テストなどを行ない、さらに家族や職場環境など社会的問題も問診します。
これによって、てんかんの発生場所や程度、治療方針などを決めます。この入院検査では、約3割がてんかん以外の病気だと診断されています。治療方針が決まったら、かかりつけ医に戻し、治療を行なってもらいます」(中里教授)
成人てんかんでは、薬は生涯必要だが、7割の患者は服薬治療でコントロール可能だ。副作用の少ない新薬も数多く登場している。薬が効かなくても発作を止める手術もあり、適切な治療で普通の生活を送ることができる。服薬治療はまずは1年程度2~3種類の薬を試し、それでも発作が消えない場合は、あきらめず専門の病院での入院検査を受けることが大切だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2015年11月13日号