今年5月から6月にかけて、中国内で、日本人男女合わせて4人がスパイ容疑で逮捕される事件が発生した。“日本人スパイ”はどこで何をし、どんな疑いをかけられた人物なのか、ジャーナリストの相馬勝氏がリポートする。
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日本人拘束の報が初めて伝えられたのは9月30日付朝日新聞の上海電だった。中国の外務省報道官は同日午後の定例記者会見で、2人の逮捕を確認したうえで、今後の対応について、「法に基づき調査し処理する」と述べた。
実は、同報道官が発した、このフレーズは中国内で汚職幹部を逮捕した際に使われるおなじみのものだ。汚職事件でこのフレーズが使われた場合、対象の幹部はほぼ例外なく起訴手続きに入っている。このため、最初に逮捕が発表された日本人男性2人については、ほぼ取り調べを終え、起訴に向かって法的な手続きが進んでいると考えてよい。
これを裏付けるように、2人の身元が明らかになるにつれ、日本の情報機関のひとつである公安調査庁との関係が深いことが分かっていく。
北京の外交筋によると、逮捕されたのは中国遼寧省の中朝国境地帯で北朝鮮の情報を収集していた神奈川県在住「脱北者」の自営業の男性(55)と浙江省の軍事関連施設に立ち入った愛知県出身の会社経営の男性(51)。
自営業男性は父親が在日朝鮮人で、母親は日本人。3歳のころ両親とともに北朝鮮に渡り、父親が軍関係の仕事で殉職したことで「英雄」と認められ安定した生活を送っていた。しかし、大量の餓死者が出た1998年、北朝鮮での生活に嫌気がさし、母親やきょうだいらと脱北。東南アジア諸国を放浪した末に2003年に日本に入り、2006年には日本に帰化した。
その後、北朝鮮にいる親族と連絡したり送金するため中朝国境地帯を訪問。最近では北朝鮮情報の収集目的で、1か月に1回の割合で国境地帯に赴いていた。