秋冷も深まる10月の最終日。東京・渋谷のセンター街で古くから果物店を営む男性店主が嘆息する。
「店の前がゴミ溜めだよ。かつらや空き缶、捨てた衣装が散乱してよ。平気でしょんべんする輩もいるし、ペイントやら口紅の落書きも多い。30分置きに掃除しても間に合わねーんだ。マナーなんてあったもんじゃないって」
秋の風物詩と化した大イベント『ハロウィン』が今年もやってきた。10月31日夜、渋谷駅の駅前には5万人を超える仮装集団が大集結。血みどろのナースからゾンビ、ジェイソン、ふなっしーに白雪姫まで、創意工夫を凝らしたコスプレイヤーが練り歩いている。
スクランブル交差点の信号が切り替わるたびに、数千人のコスプレ往来者が「うぇ~い!」と奇声を発してハイタッチを繰り返すその光景は、さながら百鬼夜行。
「車が来ますので下がってください!」
「押さないでください!」
拡声器を手にした警察官の叫び声が空しく響きわたる。区の協力の下、渋谷駅にほど近い宮下公園には着替えのための仮設テントが設けられたが、利用者はごくわずかだった。みな平然と路上で持参した仮装グッズに“お色直し”している。
200人の警察官が配置されたこの日の渋谷では、スリや警察官への暴行など、逮捕者も相次いだ。六本木も数万人の仮装集団でカオスと化し、西は大阪・道頓堀で若者が次々と川へダイブ。
「なんで飛び込むか? ノリやノリ! 東京のハロウィンには負けへんで!」
ゾンビペイントが剥がれかけた茶髪男性が叫ぶ後ろで、救急車のサイレンが鳴り響く。 閉塞感の打破、一夜限りの変身願望、多忙な日常からのひとときの逃避…。仮装の裏にさまざまな思いを抱え、若者たちは狂乱の宴に酔いしれた。
1970年代、キデイランド原宿店が初めてハロウィングッズを売り出してから40年余り。突如爆発したハロウィンブームは拡大の一途を辿り、昨年のハロウィンの経済効果は1100億円。バレンタイン(1080億円)を超えた。2011年は550億円で、この4年で倍増していることになる。
これほどのブームになった理由について、「お菓子メーカーがハロウィン限定商品を出したから」「ドン・キホーテがハロウィン用衣装を扱いだしたから」など諸説あるが、いまだにわかっていない。
ひとつだけハッキリしていることは、イベントに関係ない大多数の地元住人にとっては迷惑千万ということだ。
「この町に30年住んでいますが、一年で最悪の日です。人混みだけじゃない。イベントにかこつけて暴走族もやってくるし、ジープが10台くらい車道に並んで朝5時まで爆音を出すので、眠ることもできないんです。飲食店が儲かるといったって、そんなの一部のことで住人には関係ありません。それで翌日はゴミだらけ。こんなイベント、誰が始めたのか…」(六本木に住む60代男性)
たまたま通勤経路が渋谷を経由する女性会社員は、疲れ切った表情で語る。
「山手線から地下鉄半蔵門線に乗り換えないと行けないんですが…。地下に下りる階段を見ましたか? 人混みで動けないんです。押しくらまんじゅうでけがするのも嫌だし、もう表参道駅まで歩きます。とにかく一刻も早くこの地から離れたい」
※女性セブン2015年11月19日号