三重県志摩市が海女さんをイメージしたキャラクターの公認を撤回した。理由は市民の一部から「性的な部分を過剰に強調している」と指摘されたことなどがあるという。三重出身の大人力コラムニストの石原壮一郎氏がこの騒動を考える。
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たしかに、こんなにかわいくて色っぽい海女さんはいないでしょう。でも、それはそれでいいんじゃないでしょうか。熊本に行けば二本足で歩く頭のでかいクマがいると思っている人はいないし、亀有に行けば破天荒なお巡りさんがいると思っている人もいません。それぞれ「架空の存在」として、熊本県や警察を身近に感じさせてくれています。
三重県志摩市は11月5日、海女さんをイメージした市の公認キャラクターの「碧志摩(あおしま)メグ」について、作者の浜口喜博さんからの申し出を承認し、公認を撤回することを発表しました。メグちゃんは今後、民間の立場で活動していく予定だとか。
今年の初めごろ、東京で行なわれた三重県をPRする集まりで志摩市役所の方と名刺交換をしたら、数日後、碧志摩メグちゃんのポスターが届きました。そうことをしてもらった経験は、あまりありません。志摩市が、いかにメグちゃんを大事にかわいがっているかを深く感じました。以来、ポスターを事務所の冷蔵庫に貼って、応援し続けています。
彼女が志摩市の公認キャラクターになったのは、2014年12月。ところが、今年の夏ごろに、現役の海女さんを含む一部の市民から、「海女を侮辱している」といった声が上がります。8月には、公認撤回を求める署名が市に提出されました。
いろんな見方や考え方があるので、どんなキャラクターにせよ、市民全員の支持を得ることはできないでしょう。しかも「性的な部分を過剰に強調している」と言われたら、批判したほうが賢そうに見えるという空気も生まれます。来年5月には志摩市が「伊勢志摩サミット」の会場になることも、とりあえず自粛というムードを高めたかもしれません。あくまで噂ですが、政治方面のややこしい背景があるとも地元ではささやかれています。
市は当初は「公認を外すつもりはない」と言っていて、お役所らしからぬ気骨のある対応に、ひそかに拍手を送っていました。しかし、反対の声の高まりを受けて、9月末に作者もまじえて海女の代表との話し合いの場を持ったところ、約3割が公認取り消しを求めたとか。ということは、7割は「まあ、べつにええんと違う」と思っているわけですね。地元の新聞が行なったアンケートでも、デザインについてや市が公認したことについて、「問題ない」というメグちゃんを支持する回答はどちらも約7割でした。
もちろん、3割の反発は小さくはありません。しかし、とくに反対しているわけではない人が7割もいるし、はからずも騒動の報道によってメグちゃんの知名度や認知度は大きく上がりました。作者から「公認撤回」を申し出て、市もそれを了承するという流れは、あっちの顔もこっちの顔も立てつつ、メグちゃんをさらに飛躍させる可能性を広げたという意味で、ひじょうに美しい大人の落としどころだと言えるでしょう。