いま、秋田県から日本酒革命が起ころうとしている。一躍注目を集める5蔵が集まり、次世代を見据えた酒造りの研究会「ネクスト5」を立ち上げたのだ。その挑戦に、ノンフィクション作家の一志治夫氏が迫る。(後編:文中敬称略)
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◆「良い米の確保」も重要命題
東京農業大学の醸造学科を卒業し、五城目町にある実家の福禄寿酒造に渡邉康衛(36)が戻って来たのは2002年。渡邉の蔵もまた、売り上げの95%を安い普通酒が占めていたため、需要の激減とともに苦境に陥っていた。
「その頃は、取引先から聞かれるのは酒質ではなく、値段のことだけでした。でも、『十四代』の高木(顕統)さんという偉大な先人が山形にいて、あんな酒を自分でも造ってみたいと思い始めた。それで、2006年に『一白水成』という純米酒のブランドを立ち上げたんです」(渡邉)
香りと味のバランスがとれた『一白水成』は、瞬く間に人気となり、いまや福禄寿酒造の純米酒と普通酒の生産量は逆転した。
渡邉は地元の米農家の育成にも積極的だ。7年前に「五城目酒米研究会」を立ち上げ、現在では原料米の7割が蔵の周りで穫れた米になっている。それでも、農家の高齢化と後継者不足の問題の根は深い。
「田んぼを守っていかなきゃ酒が造れなくなる。農業法人を立ててバックアップしていく方法も考えなきゃいけない。『ネクスト5』が共同で会社を作って米を確保するやり方もあるかもしれない」(同前)