国立がん研究センターが9月に公表した「都道府県別がん死亡率」(2014年)で、19年連続でトップに輝く長野県。平均寿命においても男女とも長野がトップに輝いている。
東京から新幹線で1時間半。車窓からのどかな景色を眺めていたら、あっという間に長野駅に到着した。都心より心地よい寒さが秋の終わりを感じさせる。
到着してすぐに駅前のそば屋で食べたそばは予想したほど薄味ではなかったが、汁を飲み干す人はいなかった。ちなみに長野県は火山灰性の土壌で稲作に適さないため、そばの栽培が盛んだ。うどんと違い血糖値を上げず、栄養分が豊富なそばは生活習慣病の予防効果があるとされる。まずは店の客に健康の秘訣を聞いてみた。
「県全体で減塩運動に取り組んでいるからね。私はラーメンやそばの汁は半分残し、みそ汁も1日1杯を心がけています」(77才男性)
「野菜たっぷり、塩分控えめの食事が基本。親の健康意識が高く、小さい頃から“1日3回うがいをすれば耳が遠くならない”と教えられていたんですよ。母親は見事にPPK(ピンピンコロリ。ただ長生きするだけではなく、亡くなる直前まで元気に活動すること)で他界しました」(80才女性)
聞こえてくるのは元気で張りのある声ばかり。話を聞いた高齢者の誰もが早寝早起きを実践し、日々の体調管理に気を配る。何より、歩くスピードの速さが印象的だ。18才まで長野に住んでいた経済ジャーナリストの荻原博子さん(61才)も長野の“健康魂”が心に根づいたひとり。
「90才になる母親は若い頃から健康に気を使い、自然食の普及活動をしていました。毎朝必ず散歩に出かけ、1日1万6000歩歩いている94才の父はこの前、車の免許を更新しましたよ。おかげで私も早寝早起きで自然食の毎日。健康そのものです(笑い)」
都道府県の統計資料を集めたサイト「とどラン」を運営する久保哲朗さんが指摘する。
「長野は肺がんや胆嚢がんが全国でいちばん少なく、肝臓がんも下から4番目。肺がんと関係するとされる喫煙率は男性33 位、女性43 位と全国から見て低い。さらに健康にいいとされる野菜摂取量は、男性は全国ナンバーワンで、女性は4位です」
実は長野は昔から長命県だったのではない。1965年の調査では、男性の平均寿命が全国9位、女性が26位で脳卒中の死亡率は全国1位だった。長野県健康福祉部健康増進課の唐沢忍さんが言う。
「長野県では、脳卒中で亡くなる人が多い原因として、冬期の室温低下が挙げられていました。そのため、居間だけでも18℃以上に保つ“一部屋暖房運動”を1970年代から始めました。また、1980年代には、行政と関係団体、住民ボランティア等が一丸となって“減塩運動”を行うなど、地道な脳卒中予防活動を積み重ねたんですよ」
※女性セブン2015年11月17日号