たった一人の人物の、積み重ねた努力、計算ずくの駆け引き、起点を利かせた行動が、国や世界を動かすことがある。歴史の流れを変えた人物たちは、どんな外交を展開してきたのか。ジョン・F・ケネディ(1917-1963)の例を見てみよう。
世界が核戦争に最も近づいた1962年のキューバ危機ではケネディの交渉力が世界を血の海から救った。
緊張が高まる中でも、ケネディはソ連のフルシチョフ首相との対話に全力を尽くした。何通もの手紙を交わし、水面下でギリギリの交渉を幾度も重ねたのだ。
10月27日、米軍の偵察機をソ連軍が撃墜。全面戦争が目前となったその日、大統領の信書を託されたのがロバート・ケネディ(ケネディの実弟)だった。深夜のワシントンの公園で駐米ソ連大使と極秘に会談したのだ。
本誌連載中の落合信彦氏の著書『ケネディからの伝言』によれば、ここでロバートはあるCIAのスパイの名を挙げた。その男は、ソ連の中枢に入り込み、つい最近逮捕されたばかりだった。どんな情報が渡っていたのかを、ソ連側は把握していなかったが、その名を聞いた駐米ソ連大使は、核基地の正確な位置をアメリカに掴まれていることを悟り青ざめていたという。
翌日、ソ連はアメリカの要求をすべて受け入れてミサイルを撤去。外交史上最もスリリングな危機が去った。
※SAPIO2015年12月号