毎週月曜の深夜、大阪のなんばグランド花月(NGK)では、観客のいない劇場で新喜劇が演じられている。新作公演前のリハーサルだ。吉本新喜劇は毎週火曜日に新作が発表されるが、出演者が初めて揃うのはその前日。
10月のとある月曜日、池乃めだか(72)が芸能生活50周年を記念して座長を務める特別公演を翌日に控え、リハーサルは22時半に始まった。台本の読み合わせや立ち稽古を終えると、深夜12時過ぎにホールへ移って衣装に着替えての舞台稽古。すべてを終えた頃には深夜1時半を過ぎていた。「意外としっかり練習するんですね」と座員の1人に声をかけると、
「リハーサルが前日に数時間だけの舞台なんてほかにないかもしれませんが、台本は頭にたたき込んでありますし、後はアドリブで変わるので」
と笑いながら返してきた。
1959年、大阪・梅田に演芸場がオープンしたのを機に「吉本ヴァラエティ」として始まった吉本新喜劇は、1962年に現在の名称に正式変更し、今年で56年を迎えた。関西では土曜の昼にテレビで生放送され、大阪の子供にとっては日曜夜の『サザエさん』以上に、馴染み深い存在だ。
当初は、花菱アチャコのような既にスターの座にいた吉本の芸人のほか芦屋雁之助、大村崑など外部の人気芸人を招いて上演していた。しかし、新喜劇がスタートした直後から、研究生を募集し自社で俳優を育てていた。劇中の役名が芸名のままなのも、観客たちに座員たちの名前を覚えてもらい、次世代の看板俳優を育てるためだ。
1日2~4公演、365日行なわれる新喜劇を支えるのが座長制だ。内場勝則や東京を拠点に活躍する小籔千豊ら現在5人いる座長は、1週間ごとにローテーションで公演を担当する。
座長の仕事はいわば新喜劇のプロデューサー。公演の約1か月前に作家と打ち合わせをして台本を練っていき、約100人の中から役に合った座員をキャスティングする。公演初日前夜には冒頭のようなリハーサルが行なわれ、公演が始まった後も、土曜のテレビ放送に向けて完成度を高めるために、作家や演出家と打ち合わせを繰り返し、時間や内容を調整する。
「僕も5年ほど座長を務めていたけど、公演だけを見ていれば良い訳ではない。次世代の座長や看板俳優などの後進を育てていくのも座長の大切な役目なんです」(池乃)
撮影■久保博司
※週刊ポスト2015年11月20日号