日本ではマイナンバーの通知が始まったが、同様の制度を半世紀前から導入していた韓国では何が起きているのか。韓国版マイナンバーである「住民登録番号」の流出事件や、番号を悪用するケースが近年、急増しているという。フリーライターの張赫氏がレポートする。
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住民登録番号の流出は、韓国社会に大きな波紋を広げている。他人になりすましてカードや携帯電話を作り、悪用するなどの事件ばかりではない。民間企業や個人までもが、住民登録番号を入手し他人のプライバシー情報を“利用”しているのだ。
中でも顕著なのが、就職活動中の学生や企業で働くサラリーマンの“身上調査”に利用されるケース。
就職活動中のある大学生は、住民登録番号がきっかけで、企業からの「内定取り消し」に直面した。採用が決まった後、人事担当者から「番号を照会するので教えてほしい」と言われ、そのまま伝えると、後で担当者から「照会した結果、問題があると判断したので、採用は取り消します」と言ってきたという。住民登録番号に紐づけられた個人情報から、その大学生が性同一性障害であることがわかり、「性別と外見が一致しない」ことを理由に企業は採用を取り消したのだ。
このように、住民登録番号からは病歴なども知ることができる。例えば、あるサラリーマンは、精神科に通院していることが番号照会によって会社に知られ、それを理由に離職を求められた。
企業が個人の診療記録などを国民健康保険公団(韓国で健康保険制度を運営する機関)から入手すること自体、不法行為であるが、実際には番号さえわかれば情報を得るのは難しくないという。
※SAPIO2015年12月号