高橋由伸が新監督に就任した読売巨人軍は、若手を中心とした秋季練習でスタートを切った。新チームのアピールや話題作りに余念がないが、現在の様子が、巨人史上たった1度の最下位の年、長嶋茂雄新監督の1年目1975年に酷似しているとの指摘がある。それは、「中心選手の高齢化」「貧打」「補強なし、外国人選手への不安」「正捕手不在」「参謀の不在」といったところだ。長嶋巨人でコーチ補佐だった黒江透修氏は、「結局、監督1年目はミスターは中心選手のままだった」と語る。
「今でも覚えている言葉がある。ミスターから、“クロちゃん、なんでウチの選手はバントぐらい完璧にできないんだろうな”と聞かれたんです。でもミスターは現役時代、バントなんてしたことがない。バントは難しい高等技術ですが、いつでもできるくらいに思っていたんでしょう。
ミスターはスーパースターだったから、すべて簡単に見えていた。選手たちが自分と同じようにできないことが不思議で仕方なかったんだと思う。考えを改められたのは2年目からです」
長嶋と高橋、両青年監督は、ともにスター選手からの転身である。当時を取材したスポーツ紙記者が語る。
「あの年はキャンプから、ミスターが動けばマスコミもついて動く。記者が常に近くにいました。川上監督時代の“哲のカーテン”の反動でオープンになりすぎて作戦会議にもマスコミがいるような状況になり、チームの秘密はなくなっていた。ちょっと異様な状況でしたね」
同じスター選手の高橋監督はどうか。現在行なわれている秋季キャンプには監督専用カメラが入り、異例のテレビ生中継が実施されている。マスコミの狂騒も同じだ。
高橋監督の1年目は、長嶋監督の二の舞となってしまうのか。両OBは一筋の光明を信じている。長嶋新監督の1年目に入団5年目を迎えていた淡口憲治氏が語る。
「高橋監督は、兼任とはいえコーチも経験しているので、長嶋さんがいきなり監督をやった1年目のような戸惑いはないと思う。冷静さのなかに、厳しさを出していけるんじゃないですか」
前出の黒江氏も、長島氏の監督1年目と高橋新監督との違いを指摘する。
「高橋もミスター同様、六大学のスターで巨人のスーパースターだった。でもミスターと違うのは、高橋は控えや代打を経験し、裏方として我慢してやってきた時期があるという点。試合に出られなくても腐らず代打で貢献してきた面で苦労も知ったと思う。原監督のいい面も悪い面も知っているし、それを生かせることを信じますよ」(黒江氏)
余談だが、高橋監督がこの世に生を受けたのは1975年のこと。あまりにも多くの符合は、どんな結末を暗示しているのだろうか。
※週刊ポスト2015年11月20日号