今年で放送開始から70年目を迎えた『NHKのど自慢』。最近はSMAPが出演するなど、何かと話題も盛りだくさんなこの番組について、チーフ・プロデューサーの矢島良さんに話を聞いた。鐘による審査はどうやって行われているのだろうか?
──『のど自慢』の審査はどうやって行われているんですか?
矢島:開催地のNHKの放送部長や、東京の芸能番組のプロデューサー・ディレクターが審査をしています。会館の別室に審査室を設けて、そこで審査員がテレビ画面を通して審査をしています。審査は基本的には歌のうまさが大きな基準です。出場者が歌っている最中に審査して、その結果を鐘を鳴らす秋山気清さんという方に伝えて、鐘を鳴らしてもらっています。
番組開始当時は鐘を鳴らすのではなくて、ディレクターが、歌をやめてほしい時に「結構です」と伝えていました。でも「結構です」と言われて「良いです。上手です」と勘違いしてしまう出場者もいて、誤解を生まないために鐘を鳴らすようになったんですよ。
──ちなみに、合格ラインみたいなものはあるんですか?
矢島:歌唱力と表現力、そしてキャラクターを総合して審査しています。もちろん歌が上手だといいのですが、「明るく楽しく元気よく」というのが番組のテーマなので、笑顔で朗らかに歌っていると合格しやすいかもしれないですね。
──予選会を通過するコツみたいなものはありますか?
矢島:全国各地にお邪魔してその土地の暮らしぶりや魅力を伝えていくというのも番組の一つの目的なんです。なので、歌を通してその地域の魅力を表現できる方が予選を通過しやすい場合もあると思います。
──たとえば、その地域特有の文化などに関わっている方のほうが本戦に出場しやすい…とか?
矢島:たしかに、そういう要素はあります。でも、歌があまりにも下手だったりすると難しいですね。あくまでも「のど自慢」なので、歌を聞いて気持いいかどうかというところは重要だと思います。
──予選に出場するみなさんの歌のレベルは変わってきていますか?
矢島:ほんとに最近はどこの地域に行ってもみなさんうまいですよ。ぼくも20年間『のど自慢』の担当をやっていますが、予選で歌われる歌のレベルは明らかに上がってきている。カラオケが大きく普及したことが大きな要因なんでしょうね。
また、アラフォー以上の世代だったら、CDを聞いて歌を覚えるんですが、もっと若い世代だと振り付きの動画で覚えているわけです。そうなると、単純に歌うだけでなく、踊りも当たり前になってくる。そういう意味では、審査基準も徐々に変わってきていると思いますね。
──その一方で、出場者が緊張しまくっている様子や素人っぽい振る舞いを見て、視聴者が共感する部分もあるような気がします。
矢島:たしかにそうですね。これは生放送の魅力という部分でもあります。プロの歌手でも、緊張するんですから、一般人がうまく歌えなくなってしまうのはよくあります。それが起きうるのが『のど自慢』の面白いところだと思います。
──音楽の楽しみ方や流行するジャンルは変遷していますが、『NHKのど自慢』は70年間も続いています。そこにはどういう理由があると思いますか?
矢島:「どうして『のど自慢』に出場しようと思うのか?」という根本的な疑問をつねに持っているんですが、結局のところ「自分が歌うことで何かを伝えたい、何かを残したい」という思いが共通しているのかなと思っています。音楽の世界が変わっても、こういう思いがあるかぎり、『NHKのど自慢』は続いていくんじゃないかと思います。制作する側としても、単純に歌のうまい下手で選んでいるわけではなく、歌を通してどういう思いを伝えていけるかというところをつねに考えて番組を作っています。そういう意味では、人々の絶え間ない思いをずっと伝えられる番組であり続けたからこそ、『のど自慢』が70年間も続いたのかもしれないですね。