【マンガ紹介】『或るアホウの一生』トウテムポール/小学館/680円
マンガというのは不思議なもので、絵だけでも言葉だけでもない、コマの割られたページから、作者特有の「声」を感じることがあります。もちろん実際には紙から音は聞こえませんが、物語るテンポやリズムが心地よくて読んでいるとどんどんノセられてしまう。トウテムポールは、まさにそんなグルービーな「声」を持つマンガ家の1人です。
愛と笑いと感動をのんしゃらんと呼び起こすテレビ業界BL『東京心中』シリーズで一躍人気者になったトウテムポール。そんな彼女が一般誌で始めた新連載が『或るアホウの一生』です。描くのは、将棋のプロを目指す若者たち。才能、努力、あるいは運。今、自分の手の内にある全てを握りしめて勝負の世界にひた走る男子たちがまぶしい成長群像劇です。
猪突猛進型の熱き天然主人公・瞬。クールな優等生タイプの夏目。やさぐれ毒舌家・迫に一見いい人そうな牧野。個性も年齢も違う男たちのワチャワチャしたやりとりはもう最高! 小気味よく入るボケとツッコミが楽しくて、笑いが止まりません。
そんな中に、ふと、彼らは友達じゃなく敵だ、と思わせる怖い瞬間も描かれているのが本作の面白さ。男たちの揺れる関係性をうつしだす会話と表情の緩急に、グイグイ引き込まれます。
それぞれが背負う十字架は何か? 天才・佐宗とはどんな奴か? 気になる謎に迫るのはこれからですが、たとえ答えが明かされたり事件が起きなくてもこのキャラたちを見守りたくなることは間違いなし! 不器用に前に進もうともがく将棋野郎どもの魅力は全開です。
(文/横井周子)
※女性セブン2015年11月26日号