安倍晋三首相が来年5月の伊勢志摩サミットを花道に勇退するという奇妙な情報が永田町で流れている。持病の潰瘍性大腸炎など健康上の不安もあるが、逆風が予想される来年夏の参議院選挙を前に退くことで影響力を残すという見方もある。
どんな権力者でも、政権の終わりが見えてくると一気に求心力が下がり、後継者争いのパワーゲームが始まる。しかし、首相に力があるうちにポスト安倍の候補者たちが飛び出せば潰されてしまう。自民党内はいま、安倍政権がいつまで続くかを見極めようと「嵐の前の静けさ」の中にある。
首相側近サイドで早期退陣シナリオが練られているのは、反対勢力が動き出す前に先手を打って後継指名の流れを作る狙いがある。そこでサミット花道論とセットで語られているのが谷垣禎一・幹事長への政権禅譲だ。
「総理がいま一番信頼しているのは谷垣さん。もともとはハト派で安倍総理とは安全保障や財政政策の考え方が正反対だったが、すべて総理に足並みを合わせて一切逆らわない。偉大なイエスマンだ。
総理が勇退する時には、内政では憲法改正の準備を進めること、外交は中国と距離を置くこと、そして意中の後継者である稲田朋美・政調会長を然るべきポストで処遇することという安倍路線を引き継ぐ3つの条件つきで、次期総理・総裁に谷垣さんを推す可能性が高い」(安倍側近筋)
安倍首相自身は最大派閥の細田派に戻り、派閥会長となって政権の「後見人」に収まるのだという。
だが、そうした禅譲シナリオに「待った」をかける存在がいる。安倍政権の大番頭、菅義偉・官房長官だ。
本誌は前々号で、安倍首相周辺から首相と菅氏を引き離そうという「すきま風」情報が流され、背景に後継者選びで2人が対立関係になる構図があると報じた。政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏が指摘する。
「菅さんは官房長官として長期政権を維持することに精力を注いでいる。それは安倍総理だからです。仮に安倍さんや側近が谷垣禅譲に動き、『菅さんも官房長官として谷垣総理を支えてくれ』といわれても、そういう選択はしないと思う。
むしろ『総裁選をやるべき』と禅譲に反対するでしょう。菅さんの周囲には官房長官の役目が終われば菅派を結成すべきと求める勢力がある。総裁選になれば石破茂・地方創生相など谷垣氏以外の候補を推すか、自らの出馬を選択するかはわからないが、いずれにしても谷垣さんのライバルとして立ち塞がるのではないか」
政権の要である菅氏が安倍周辺の「谷垣禅譲」に異を唱えた時こそ、自民党大乱のゴングが鳴る──。
※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号