現代にタイムスリップした幕末の志士・武市半平太が痛快に世直ししていくコメディ時代劇『サムライせんせい』(テレビ朝日系)。坂本龍馬らと現代のチャラ男、ギャルとのやりとりが笑えるが、現代語と幕末時代の言葉の“変換”や、たまに飛び出すあり得ない勘違いなどが「ウケる」とネットで話題になっている。時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんがその面白さについて綴る。
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映画『ちょんまげぷりん』に続いて、またまた錦戸亮がタイムスリップ?と驚きつつ見ているドラマ『サムライせんせい』で、つくづく思うのは、「言葉は難しい」ということである。
このドラマの主人公は、幕末の土佐藩で若者のリーダーだった武市半平太(錦戸亮)。武市はいろいろあって切腹することになり、いよいよというその瞬間!となった時、なぜか平成の世にタイムスリップしてきたのだった。親切な老紳士佐伯(森本レオ)に助けられ、こどもたちの学習塾の先生となる半平太だが、当然のごとく現代の物品や風習には戸惑いの連続。そんな半平太を助けるのが、先にタイムスリップしていた坂本龍馬(神木隆之介)なのである。
ちょんまげに着物、袴姿で行く先々で困惑される半平太に対して、とっくにいまどきのふわふわヘアとファッションとなり、スマホなども使いこなすちゃらちゃらした龍馬は、現代語と江戸言葉の通訳の役割もする。「闇金→悪徳高利貸し」、「ボディガード→用心棒」、「テレビ・PC→絵箱」などなど。可愛い女子高生の「ピュア」な感じを「箱入り娘」としたのはナイス意訳だし、「デリヘル」を瞬時に「移動式遊郭」と訳す龍馬って。世の中知りすぎでしょという感じだが、このキャラは「日本を今一度せんたくいたし申候」などと手紙に書いた史実の龍馬の言葉のセンスを買ってのことなのかも。
しかし!このドラマで本当に難しいのは、現代語の方なのだった。第一話で白装束の切腹スタイルのまま道路で気を失っていた半平太を最初に発見したのは、村のヤンキーカップル、サチコ(黒島結菜)と寅之助(藤井流星・ジャニーズWEST)。半平太は彼らの黒い軽ワゴン車を黒漆仕様の箱車と思い込み、ヤンキーたちは半平太のちょんまげを「レイヤーじゃね?」などと勘違い。私はちょんまげはレイヤーカットの一種なのかと驚いていたが、この場合の「レイヤー」は「コスプレイヤー」のことなんですね。難しい。すっかり勘違いの渦に巻き込まれてしまった。
第四話では、サチコが大富豪の箱入り娘だと発覚。寅之助に恋した彼女は、彼に好かれる女の子になるためにお嬢様ルックからカツラとヤンキーファッションで変装、必死にヤンキー言葉を学んだのである。専門用語を単語カードに書いて暗記したり、パソコンの音声ソフトで「ちょりす」のイントネーションの確認までするサチコ。「パない」の「半端ない」はともかく、「かまちょ」が「かまってちょうだい」、「トッパシ」が「突発的に前橋に行くこと」って。難易度高過ぎである。
家に連れ戻されたサチコを追跡しようと、さっそくGPSを活用する龍馬の横で目をぱちくりする半平太。ところがその横では寅之助がGPSをGNPと勘違いしているのだ。
寅之助は「王政復古」を「遅っせえふんころがし」と間違うなど、間違うほうが難しいだろうという間違いを連発。さらには元不良のカラオケスナックのママが「薩長同盟」をいがみあってた者同志の同盟と聞いて、「上州達磨会と栃木バンデッドが手を組んだってことか。ありえない」と納得する場面も出てくる。もはやわかりやすいのか、わかりにくいのか、わからなくなってきた。どこまでいくのか、この勘違いと新型歴史用語解説。ドラマの内容とは別のところが気になるドラマなのである。