11月7日、東芝は一連の不正会計問題をめぐり旧経営陣5人に計3億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたと発表した。
東芝の現経営陣には“これでひと区切り”という空気が漂っているが、むしろこの訴訟によって株主からの風当たりは強まっている。
提訴の根拠とされたのは、同9日に公表された旧経営陣の関与などを検証した「役員責任調査委員会」による報告書だ。この中で調査対象者98人のうち、賠償責任が認定されたのは西田厚聡氏、佐々木則夫氏、田中久雄氏の歴代3社長と当時の財務担当役員2人のみ。経済ジャーナリストの磯山友幸氏が話す。
「東芝は不正会計による損害額を10億円超としながら、5人への請求額は3億円とした。報告書には具体的な賠償金額は示されておらず、東芝側も3億円の算定根拠は明らかにしていません。歴代3社長らが主導した利益の過大計上は2000億円を超えている。請求額は過少と言わざるを得ません」
2011年、1000億円を超える「損失隠し」が発覚したオリンパスは翌2012年に、旧経営陣19人に対し計36億円の損害賠償を求め提訴した(現在も係争中)。
2008年には53億円の粉飾決算について証券取引法違反で逮捕・起訴された旧ライブドア元社長・堀江貴文氏が、会社から約363億円の損害賠償請求を起こされた(2009年、堀江氏側が208億円相当の資産を引き渡すことで和解成立)。
そうした過去の事例と比べても「3億円」は少ない額に映る。磯山氏が続ける。
「報告書の中で、〈個人の賠償能力〉を勘案して〈請求額は慎重に検討する必要がある〉と書かれていますが、歴代3社長は社長在任中に請求額を優に超える報酬を得ています。西田氏は2010年3月期からの5年間で6億3500万円、佐々木氏は2012年3月期からの3年間で3億2800万円、田中氏も2014年3月期の1年間だけで1億1100万円の役員報酬を受け取っている。賠償能力を考慮するというなら、もっと多額であってもいいはずです」
※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号