全国に約500万人いる認知症患者は2025年に最大730万人に達する。10年後には65才以上の高齢者の5人に1人が認知症となる――厚労省は今年初め、そんな試算を発表して、世間に衝撃を与えた。
どんどん日本人の平均寿命は延び、誰もが認知症のリスクに直面するなか、NHKスペシャル『シリーズ認知症革命』が大きな話題になっている。
「ついにわかった! 予防への道」と銘打たれた第1回放送(11月14日)では、いったん発症すると治療は困難で、投薬によって進行を遅らせることしかできない認知症が、早期診断により、未然に「予防」することが可能であると明らかにされた。
その認知症予防の重要なカギを握るのが、「MCI(軽度認知障害)」だ。番組にも登場していた、認知症予防の第一人者で、日本認知症予防学会理事長の浦上克哉鳥取大学医学部教授が解説する。
「MCIとは、記憶力や注意力といった脳の認知機能が正常より低下しているが、認知症のレベルには至っていないグレーゾーンを指します。
私たちの脳内ではさまざまな部位が結びつき、多様な『脳内ネットワーク』を形成しています。ところがMCIになると、このネットワークの結びつきが弱くなり、認知機能の低下などの各症状をもたらすと考えられています」
MCIと診断されると、12%の人が1年以内に、半数が5年以内に認知症を発症するという研究がある。MCIとは、いわば認知症の「予備軍」なのだ。日本では65才以上の高齢者の4分の1がMCIで、計400万人いると推定されている。今なぜMCIが注目されるのか。
従来、認知症というと、遅いか早いかという差はあるものの進行を止めることはできず、悪化への「一方通行」とされてきた。しかし、MCIの段階で対策を講じることで、認知機能の低下が回復したり、認知症の発症を防げることが世界中の研究で明らかになりつつあるからだ。
MCIで早期診断できれば、まだ「後戻り」ができるというのだ。
※女性セブン2015年12月3日号