2011年の東日本大震災では、地域コミュニティの重要性が再認識されたが、地域活動への参加度にはどうしても濃淡が出てしまいがちだ。毎月きちんと収めている町内費や寄付金の明細が不透明な場合、どのようにそれを正せば良いのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
私の町では毎月、500円の町内費を集めているのですが、解せないのは帳簿がないことです。さらに問題なのは、秋祭りの寄付金の明細なども長老と呼ばれている人たちだけが把握していること。町内で軋轢を起こしたくないですが、金銭の問題でもあり、はっきりさせるにはどう働きかければよいですか。
【回答】
町内会は通常、任意団体です。特定の地域の住民で構成され、住民の出入りがあっても町内会自体は維持されており、会館だとか祭り道具などの施設を保有しているのが普通です。
あなたの町内会も長老と呼ばれる人が代表を務め、町内会の名前で対外的な取引などをしていると思いますが、こうした団体を権利能力なき社団と呼び、法的にも団体として扱われ、例えば裁判の当事者などにもなれます。
しかし、不動産登記は法人格がないためできません。そこで平成3年に地方自治法が改正され、一定の要件を備えた地縁団体が市町村長の認可を受ければ、法人格を付与されることになりました。法人になれば、構成員からの監視の機会も増えます。認可を受ける条件である規約には、資産に関する事項も規約事項になっていますが、住民の帳簿等の閲覧権までは規定することを求められていません。
また、地方自治法の条文上も住民の帳簿閲覧権を認めていません。ですが、法は団体に財産目録の作成を命じており、代表は総会決議に従う義務がありますから、総会の決議で会計内容の開示をさせることはできますし、監事を置いて財産状態の監査をさせることも可能です。
町内会が法人格のない任意団体にとどまる場合は、規約などで住民の閲覧権が定められていないと、会計資料の閲覧を要求する権利は認められないと思います。
長老らが多額のお金を私的に流用している確証があれば、横領の疑いで警察と相談することも考えられますが、明細がわからないようなので無理です。さしあたり、町内会の会合で質問や会計報告を要請することから始めるとしても、一人で行動すると、のけ者にされる恐れもあります。同憂の住民を探し、協力を求め町内世論を高めるしかありません。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年11月27日・12月4日号