ライフ

浅田次郎が綴る 感動と笑いが詰まった「日本再発見」の小説

【著者に訊け】浅田次郎さん/『わが心のジェニファー』/小学館/1620円

【あらすじ】
 日本をこよなく愛しているジェニファーとつきあって1年あまり、彼女にプロポーズしたラリーが告げられたのは、〈「日本を見てきてほしいの。休暇をとって、ひとりでゆっくりと」〉という言葉だった。そして日本に向かったラリーは東京、京都、大阪…と足の向くままに観光名所を巡る旅に出る。彼が初めて見る景色や出会う人々、出来事への驚きと感動が、日本がどんな国なのかを教えてくれる。

 ニューヨーカーの青年ラリーが、東京、京都、大阪、別府、釧路と初めての日本を行き当たりばったりに旅するロードムービースタイルの小説だ。

「とりあえず、初めは東京に行くだろう。予備知識なしに行ったら、うんざりしていきなり京都に行ったりするんじゃないか。そういう自然な感じで書いていったらこのルートになりました。もっといろんな場所を紹介したかったけど、小説が終わらなくなるからね(笑い)」

 ビジネスホテルの狭い部屋、豊富な品揃えのデパ地下、生活必需品が何でもあるコンビニと、ラリーの目に映る日本はワンダーランドだ。

 彼に日本旅行を勧めたのは恋人のジェニファーで、日本びいきの彼女は、携帯もパソコンも置いていき、かわりに手紙を書くように告げる。

「旅というのは本来、自分で組み立てていくものだし、偶然の出会いが旅を面白くする。今の人は旅先でもスマホをいじっているけど、スマホで調べながらだと初めから旅の楽しみを放棄していると思うんです」

 ちなみに浅田さんの携帯はガラケー、たまにiPadで調べ物をするぐらいで原稿も手書きだ。

「こういうの(スマホの動作)をやらないと、いやでも人間ものを考えますよ。ぼんやりしてる時間ってすごく貴重なのに、これ(スマホ)で埋め尽くしてるのは大変危険なことだと思います」

 驚きと発見にあふれる旅先はいずれも、旅のエッセイを長年、連載してきた浅田さん自身が訪ねたことのある場所である。執筆前に日本で暮らす外国人に座談会をしてもらい、日本の第一印象などを聞くなどしたうえで、ラリーの気持ちになりきって「初めて見た日本」を書いた。

 両親が離婚し、祖父母に育てられたラリーは、まじめでナイーブ。自分は面白い人間ではないと思い込んでいるが、新しいものに出会ったときの彼の反応、勘違いや妄想の突拍子のなさはユーモラスで、ジェニファーならずとも、笑いのツボをびしびしつかれる。

「最近は泣かせる作家と思われているけど、根はお笑いですから(笑い)。笑いっていうのは万能で、病気も癒すし、悲しみだって癒すんです」

 ラリーは新しい自分を発見できるのか。旅の途中、彼が手にする2冊のガイドブック、「すばらしき日本」「日本無秩序旅行」は浅田さんの創作で、とくに本音満載の「無秩序~」が傑作だ。実際に出版されたら爆発的に読まれるのでは?

「小学館に、出せ出せ、って言ってます。『ジ・アナーキー・ツアー・イン・ハワイ』だったら、ぼくがガイドしますよ」

(取材・文/佐久間文子)

※女性セブン2015年12月10日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン