山口組分裂騒動に乗じて、ヤクザ社会では地殻変動が起きつつある。フリーライターの鈴木智彦氏が「組長リンチ撲殺事件」の与えた影響と、事件後発生した噂についてレポートする。
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山口組の直参(二次団体組長)にまた死者が出た。トップの司忍六代目組長と直接盃を交わしている旗本級が殺されたのだ。暴力団社会では命の価値に明確な格差がある。抗争においては、末端組員を殺しても小数点以下のポイントにしかならないため、直参殺害の報復には同レベルの大物を殺害するか、もしくは末端組員の複数の命が必要になる。そのため、直後は暴力団社会が沸騰した。
11月15日午後5時40分頃、三重県四日市市のビルで、愛桜会・菱田達之会長は惨たらしい状態で見つかった。手足を結束バンドで縛られ、体中を殴打されていた。運転手の組員が時間になっても連絡が取れないことから姐さんに相談、訪れた別宅の玄関付近で菱田会長が倒れているのを見つけたという。死因は外傷性ショック、つまり撲殺である。現場には鉄棒が残されており、2階の窓が壊されていた。
愛桜会は六代目山口組に残った側である。抗争事件とすれば神戸山口組の犯行になる。しかし、強い怨恨を感じさせる手口と、一部の関係者しか知らない別宅での犯行だったため、抗争とは無関係だとして夜には騒ぎが沈静化した。
ところが翌朝にかけて別の噂が広まり、暴力団たちは再沸騰したのだ。
愛桜会には伝説のボディガードが在籍している。1996年、京都府八幡市の理髪店で、当時五代目山口組の若頭補佐だった中野会・中野太郎会長(のちに宅見勝若頭を殺害したことで絶縁)が散髪中、会津小鉄会系のヒットマンに銃撃された。
このとき、ボディガードが所持していた拳銃で応戦し、二人の組員を殺し、中野会長は無傷だった。映画さながらの銃撃戦を制したそのボディガードが、出所後、愛桜会に所属している。
「こんな大胆な犯行はあの人にしか出来ない。どうやら今朝方、自殺したらしい」(弘道会組員)
撲殺事件の翌日、伝説のヤクザが謎の自殺……噂は爆発的に広がり、警察筋が確認する騒ぎとなった。しかし、当の本人が病院に入院しているという明確なアリバイがあったため夕方にはガセネタと判明した。
「犯人はいまだ不明。誰が話を作ったのかわからんが、最近はそれっぽい話がすぐに広まる」(警察関係者)
※週刊ポスト2015年12月11日号