反日デモから爆買いへ。日本人の中国に対するイメージも若干変容しているように見受けられるが、”火種”は消えたわけではない。拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
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日本は他人のことを言う前に、まず自らの言動をよく反省する必要があります――。
マレーシアで行われていた東アジア外相会議。この期間中、行われた安倍首相と李克強首相の間で交わされたやり取りに触れた王毅外相は、こんな表現で日本に不快感を表した。発言は日本が8月6日、100億円の費用をかけて沖ノ鳥を鉄筋コンクリートで補強したことを指してのことだった。
久しぶりに日中間に小さな火花が上がった瞬間であったが、実は深刻なのは、当日に李首相の口から出たこんな言葉だったとされている。
「日中関係は最近ある程度改善された。これは両国民の利益に合致する。だが改善の勢いは依然脆弱であり、これが続いていくかどうかは、日本側が約束をしっかりと遵守するかどうかを見る必要がある。日本側は両国の相互理解の強化に寄与する事を多く話し、両国関係の改善に寄与することを多く行い、日中関係の一層の改善と発展への影響がないようにするべきだ」
外交部長が発する言葉と首相では重みが違うことは言うまでもない。このことは日本に対する中国の警戒心が再び高まっていることをうかがわせた。
中国が埋め立てを行っている南シナ海の人工島から12カイリを米海軍のイージス艦が通過したときにも、外交部の報道官や王毅外相が反応しただけで李首相や習近平国家主席が反応することはなかった。その点と比べても一つのサインと受け止められた。
この時期、李首相がこのことに言及した背景には、実は中国国内に若干だが再び反日的なムードが出始めていることと関係があると考えられているのだ。
そのことを象徴する事件が起きたのは11月10日の夜、江蘇省常州市でのことだ。酒に酔った20代の男が、日本車だけを狙って破壊行為に及んだというのである。地元の『揚子江晩報』が伝えている。
男の供述によれば、11月11日の「独身の日」を前に「一つ大きなことをしたかった」というのだが、ここに皆の共感を得たいという気持ちが含まれていたことは、このニュースが泣かれた後にネットのなかで大きな論争を呼んだことでも明らかだろう。
最終的には男の行為を”犯罪”として非難する向きが多かったと伝えられているが、酔っていながらもわざわざトヨタ、ホンダ、日産だけを狙っているのも気になる動きだ。
今年5月には日本で爆買いする中国人のニュースを受けて国内ではこんな書き込みが話題を呼んだこともあった。
〈爆買いの中国人観光客は毎年日本のために5隻の空母を造ってあげている?〉である。
この時も書き込みに対する批判が大きく上回ったが、根っこにはまだまだこうした感情が残されているのだ。