警視庁によると2014年に65才以上のドライバーが交通事故に関与したケースは全体の20.4%。2005年の10.9%から10年間で9.5%増加した。また、警察庁によると、2012年に65才以上の高齢ドライバーが起こした交通事故は全国で約10万3000件だった。
さらに、2014年末までの4年間に高速道路で発生した「逆走」739件のうち、およそ7割が65才以上の運転者だった。
65才以上の運転免許保有者は2014年末で約1639万人。一方で認知症になる高齢者は7人に1人といわれており、単純に計算すれば、認知症の高齢ドライバーは約230万人に達するとの見方もある。
現在、高齢者に免許返納を強制する制度はなく、75才以上のドライバーは、3年ごとの免許更新時に「認知機能検査」が義務付けられるだけだ。
今年6月に成立した改正道交法では、更新時の検査で認知症の恐れがあるとわかれば、医師の診察を義務付ける。そこで発症がわかれば免許取り消しか免許停止になる。
国は高齢ドライバーの安全対策を進めるものの、残された課題は多い。高齢者の運転問題に詳しい鳥取大学医学部の浦上克哉教授が言う。
「高齢者の事故が増えている大きな原因のひとつは、認知症が増加していることです。しかし、高齢者のなかにはすでに認知症でありながら、診断や治療がなされていないかたが多い。国は現在、全国に462万人の認知症患者がいると推計していますが、その半数は、診断を受けていない“隠れ認知症”だと思われます。こうしたかたが認知症だと気づかず運転することが交通事故につながります」
現状の制度では、交通違反を起こしてから診察を受け、認知症と診断されると免許返納を検討することになる。また改正道交法での「認知機能検査」は30分ほどで終わるもので、一定のイラストを記憶し、採点には関係しない課題を行った後、記憶しているイラストをヒントなしに回答するなどの記憶力や判断力を測定する。認知症でない人でも答えるのが難しいという人がいるため、決して安易なものではない検査だ。
しかし、検査をすればいいというものでもない。
同じく、高齢者の運転問題に詳しい、山梨大学工学部の伊藤安海准教授も、そもそも認知症と診断された後も運転を続けている人が大勢いる、と指摘する。
「現状では病院で認知症と診断されても医師が警察に報告する義務はありません。なので、認知症患者も運転をしているんです」
実際、国立長寿医療研究センターが2011~2013年に愛知県で行った調査では、認知症の疑いがある男性高齢者の6割が車の運転を続けていた。
※女性セブン2015年12月10日号