健康診断や人間ドック、体の不調で行った病院など、がんはさまざまな形で見つかる。しかし、ほとんどの場合、それは「がんの疑いがある」という、あくまで「疑い」のレベル。しかし、この時点で、大騒ぎする人も多いという。
東京ミッドタウンクリニック健診センター長・先端医療研究所あきらめないがん治療外来医師で、これまで多くのがん告知を行ってきた森山紀之さんはこう語る。
「医師の側は少しでも疑いがあれば精密検査を勧めますが、“精密検査=がん”と思い込んでしまい、親類縁者に“オレは死ぬんだ”と電話をかけまくる人も少なくないんです」
以前は、がんだと告げられた患者が精神的に立ち直れなくなることを恐れ、本人に告知しないことが多かった。しかし最近では、「告知が当たり前」になっている。ただ、だからといって告知を受けた時の衝撃は何一つ変わらない。精神科医としてがん告知を受けた患者の精神的なサポートを行っている、国立がん研究センター・中央病院精神腫瘍科長の清水研さんの話。
「例えば40代~60代の女性は、自分がいつか死ぬことを頭では理解しているけれども、それは遥か先のことだと思っている。今のこの生活が来年も再来年も3年後も4年後もずっと続くと思っているし、極端なことを言えば、自分は死なないという錯覚の中で生きているんです。
それが突然告知を受け、はっきりと死を意識するわけです。小さなお子さんがいるお母さんなら、その子の行く末を見守っていけるか、仕事をしている人なら仕事をどうするかが心配になる。苦痛への不安を覚えたり、自分が消滅することが理解できずに恐怖を覚える人もいるかもしれません。心の中で起こることは、その人の人生や価値観で異なります」
東京都在住の坂上恵美さん(44才・仮名)は6年前、血液のがんである急性リンパ性白血病だと告知された。
「最初に告知を受けたのは病院に来ていた夫と私の両親、夫の母親でした。私はその後に夫から病名を聞きましたが、医師に『血液の病気』といわれていてなんとなく想像がついていたので、意外なほど冷静に受け止められました。
でも、家族が帰った後、病室でひとり、明け方まで泣き続けました。“幼い娘を置いて死ぬわけにはいかない”と…。翌日には先生の励ましもあって“頑張ろう”と思うんですが、夜中に病室でひとりになると、不安で涙が止まらなくなりました」
※女性セブン2015年12月10日号