安倍晋三首相の周辺では、2017年4月に予定されている消費税率への10%増税を再延期するべきだという声が高まっている。増税を成し遂げたい財務省の官邸の間に緊張が走っているという。
今年年末から来年前半にかけての日本の政治は、「消費税10%」実施をめぐる財務省を中心とする霞が関と安倍官邸の力比べになる。しかし、安倍首相にとって増税の再延期や凍結はいばらの道であることにかわりはない。
「リーマン・ショック級の国際経済危機」がない限り増税を実施するといってのけた安倍首相は、現在の経済状況を「景気後退ではない」と、いい張っている。それにもかかわらず、この先、明確な経済クラッシュがないまま増税再延期に踏み切れば、アベノミクスによる3年間の経済再生が失敗したことを自ら認めることになるからだ。安倍首相に関する多くの著作があるノンフィクション作家の大下英治氏が語る。
「安倍さんは昨年の総選挙で消費税増税先送りを掲げて大勝した。民意をバックに増税派の財務省との戦いに勝ったわけです。だが、あのとき首相は、次は必ず税率を上げると国民にも財務省にも約束している。現状の経済情勢で増税するのは難しいので到底できないけれども、さらに増税を見送る場合、もう一度、解散に打って出て国民に信を問い、勝負を賭ける必要がある。
しかし、これも実際には難しいでしょう。増税見送りを理由に総選挙をすれば、『アベノミクスの失敗』を自ら証明するようなもの。結局は追い込まれて政権基盤が不安定になっていくのではないか」
自民党の若手議員たちの間でも、2年ごとの総選挙については不安の声が強い。前回のような大勝利を期待するのは難しいだろう。
それでも、安倍首相周辺には増税見送り解散に強気の声があり、「解散」という博打にでる可能性もゼロとはいえない。
いずれにしても、消費増税の再延期と解散をめぐって自民党内が大きく揺れることは間違いない。自民党反主流派のベテラン議員が語る。
「その時こそ、経済政策をめぐって党内の政策論争が起きる。安倍さんがまた解散を打つというなら、総理に従ってきた二階俊博・総務会長や麻生太郎・財務大臣も黙っていないだろうし、本格的な安倍降ろしの動きが広がるはずだ」
退くも地獄、進むも地獄、である。
※週刊ポスト2015年12月11日号