不動産バブルに加えて、株式バブルも崩壊した中国経済。GDP世界2位の大国が揺れている。習近平政権はなりふり構わぬ株価維持政策に出たが、それも再び暴落するのは時間の問題だ。その時には経済だけでなく社会も大混乱に陥るのは必至だろう。
起死回生を狙ったアジアインフラ銀行(AIIB)も、実は中国が抱える悩みを解決するためだけに作られたもの。資金提供したヨーロッパ諸国は痛い思いをすることになる羽目となる。中国経済崩壊により、世界はどうなってしまうのか。日本はどうすればいいのか。このほど中国での現地取材と詳細なデータを読み解いた『中国崩壊後の世界』(小学館新書)を上梓した気鋭のエコノミスト・三橋貴明氏に話を聞いた。
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──世界中が注目する中国の現状はどうなのか。
三橋:2015年の9月に中国に向かい、大連、オルドス、北京と周り、様々な人々に取材した。特に驚いたのはやはりオルドス。高速道路や高層ビルなど見た目のインフラは異様なほど充実している。空気も中国とは思えないほどきれい。ところが、人間がいない。現地に住む中国人に聞いたところ、10万人程度が住めるマンション群に暮らしているのは100人程度とか。しかも、住んでいるというよりも、オルドス市が補助金を出して、薄給の清掃員やタクシー運転手などに「住んでもらっている」状態とのことだ。
ゴーストタウンというと廃墟をイメージするが、オルドスはインフラが整っているだけに逆に不気味な感じを受けた。2010年までオルドスは中国で1人当たり国民総生産が中国全土で1位だったのに、主要産業だった石炭価格の暴落に加え、習近平の“大気汚染政策”が追い打ちをかけて、この有り様だ。5年後、この街はとんでもないことになっているだろう。さらに、詳しくは『中国崩壊後の世界』を読んでいただきたいが、オルドスには驚くべき地区が存在するのだ。これはまさに中国の歪みの象徴といえるだろう。
──それでも中国が発表する経済成長率は7%近くと高いままだ。
三橋:そもそも、中国が発表する数字そのものが嘘だらけ。何といっても、地方政府が発表するGDPを全部足すと、中国国家統計局による全国GDPを日本円にして54兆円も超えてしまう。地方政府はGDPを上げなければ共産党における出世の道が閉ざされるから、そんなことを平気でする。直近の鉄道貨物輸送量が10%以上落ち込んでいるのに、経済成長率はびくともせずに7%などあり得ない。はじめから、7%という数字ありきなのだ。
──中国の産業構造に問題がある。
三橋:中国は過剰投資しすぎた。鉄鋼を例にとれば、中国の粗鋼生産量は年間8億トンにも関わらず、生産能力は12億5000万トン。設備稼働率は65.8%。明らかに供給過剰だ。日本の鉄鋼の生産規模は1億1000万トン。中国は余剰供給能力だけで日本の生産規模の4倍にも達している。中国国内の鉄鋼需要は50~60%が建設や不動産、インフラ部門が占めていた。不動産バブルが継続するという前提だ。しかし、不動産バブルは崩壊している。
鉄鋼の供給過剰を国内で吸収することができない、ということを考えれば、AIIBの設立に躍起になるのも説明がつく。逆にいえば、AIIBを強引に設立し、世界中から資金調達した上で、アジア各地にインフラ投資を実施していく以外に、国内の鉄鋼等の供給過剰を昇華する道は残されていないというわけだ。供給過剰問題は鉄鋼だけでなく、自動車産業にも当てはまる。100社以上がある2015年の各自動車メーカーの稼働率は5割前後だ。すでに日米をはじめとした主要国の投資は大幅に激減している状態だ。