約130人の犠牲者を出したフランス・パリの同時テロは、「イスラム国」(IS)によって入念に準備、計画されていたことが明らかになりつつある。その直前に起きたロシア機爆破(乗客乗員224人死亡)も含め、「イスラム国」による国際テロは新たなステージに入った。日本も「イスラム国」の標的の一つである。もはや安全な場所はない。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が次なる危機を読み解く。
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テロの危険については、日本も例外ではない。人口密集地である東京など首都圏で発生する可能性さえある。
2014年10月、日本でもIS支配地域への渡航を計画していた北海道大学の男子学生と、それを手引きしたイスラム法学者の元大学教授に対して警視庁公安部が家宅捜索と事情聴取を行った。この事実が示すように、ISに共感を抱く若者はどの国にもいる。
もちろん警察は、特定のネットワークに属しているものであればある程度マークしているだろうが、人知れずISへの強い思いを持っている「一匹狼」型の潜在的テロリストを監視することは難しい。
ISの大義に共感した日本人テロリストが、例えば、新幹線の1号車と2号車のあいだにガソリンを撒き、トンネルに入る直前に火を放ったらどうなるか。爆発し、脱線。数百人の死者が出る可能性が十分ある。だからといってガソリンの販売を規制することも、新幹線の乗客全員に持ち物検査をすることも非現実的だ。
退路を確保することなく、自分自身が死んでも構わないという気構えを持ったテロリストの行為を防ぐのは、不可能に近いのである。
ここで重要なのは、ISの手先として動いているテロリストは精神に変調をきたしているわけでも、非合理な行動をとっているわけでもないということだ。テロリストには、唯一神アッラーの法が支配するカリフ帝国(イスラム帝国)の設立という明確な政治目標がある。その点においては、まったく対処不能ではない。
この政治目標に照らせば、フランスに対しては「シリア空爆の有志連合からフランス軍は手を退け」、日本であれば「有志連合に金を出すな」といった具体的な要求が存在する。
そうしたISの要求を受け入れず、テロとの戦いを毅然として進め、テロに関与した者については法規を厳格に適用して責任を取らせる。テロリストはいくらテロを続けても目的が達成できないと判断すれば、方針を変える。
※SAPIO2016年1月号