国内

国立大学の学費の値上げが「地方の劣化」招くことになる理由

国立大の学費値上げの影響は地方の中核人材に出るとの指摘も

 文部科学省が2031年度に国立大学の学費が年間約93万円になるという試算を発表した。現在の私立大学の平均学費より高い。大学進学を経済的な理由で諦める若者が大量に出てくると、社会はどうなるのか。コラムニストのオバタカズユキ氏が日本の近未来を描く。

 * * *
 貧すれば鈍するという。いま日本では、そうした負のスパイラル的な劣化が方々で起き始めているような気がしてならない。

 たとえば、大学の劣化を自ら招こうとしている。今月1日の朝日新聞の報道によれば、文部科学省が国立大学の授業料値上げの試算を明らかにしたそうだ。現在、年間約54万円の授業料が、2031年度には約93万円に上がるとの話である。

 文科省はそうした事態にならないよう抵抗中だが、財務省が〈全86国立大学の収入の3~4割を占める運営費交付金約1兆1千億円を31年度までに約9800億円にする方針〉を立て、それを遂行しようとしている。

 現在、私立大学の授業料平均は年間約86万円。2031年度まで16年間あるから貨幣価値がどうなるかわからないが、日本人一般の収入が変わらないとしたら、93万円になってしまうと私大の場合以上の経済的負担を国立大の学生やその保護者に強いることになる。医歯薬系や理工系の学部に入るのならまだお得だろうが、文系学部に関しては「国立に合格しても親孝行にはならない」事態が出来する。

 この報道に対し、ネット上では一斉に嘆きや叫び声があがった。私も〈貧乏人は高等教育を受けられない国へ。すでにこんなに高いのに〉とつぶやいたら、たくさんの人にリツイートされた。そう、年間約54万円という今の授業料だって決して安くはない。先進各国は高等教育の無償化のほうへ動いているというのに、うちらは何を好きこのんで逆行するのだ。

 財務省がどんな力学の上でそういう動きを見せているのかは知らない。そのへんはジャーナリストを名乗る方々にしっかり伝えてもらいたい。

 だが、その理由がなんであれ、授業料を上げれば、地元の国立大に「すら」行けなくなる若者が確実に増える。現に、先日、日本経済新聞が気になる記事を流していた(共同通信配信)。

〈子供の教育支援に取り組む公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」(兵庫県西宮市)は2日までに、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島各県の中学3年生が将来の現実的な進学先として「大学以上」を挙げた割合が、全国の中3生と比べて1割低いとの調査結果を発表した。法人は震災の影響による保護者の収入源などが背景にあるとみて、支援が必要だとしている〉

 近代以降、少なくとも先の大戦以降の日本には、衣食住の出費を節約しても教育費は惜しまない、という考えが根強かった。が、それも一定以上の豊かさが担保された上での話で、生活が本格的にきつくなり、上向く見通しも立ちにくければ、教育投資も控える層が当然出てくるのである。

 そういう層からでも優秀な人材は輩出される。小中校と地元の公立学校に通い、塾や予備校にも通わず、旧帝大クラスに入学し、社会で重要な仕事を担っている日本人は各分野にいる。国立大の値上げは、そんなポテンシャルのある子供が伸びる芽を摘んでしまうか?

 そうだ、頭が良くても家庭に金がないと大学に行けなくなる、と今回の財務省の動きを批判する声が多い。しかし、この点に関して、私はあまり気にしていない。なぜならば、財務省が締め付けるほど、各大学は必死に生き残りを図る。その生き残りの指標として、グローバルな市場でイノベーティブな商品を開発するような人材の輩出力が使われる。具体的にいうと、例えば、その時点で評価の高い国際企業にどれだけ就職させることができるか、だ。

 その手のポテンシャルのある人材は、特待生として歓待すればいい。現在だって、図抜けた能力の持ち主向けの給付型奨学金制度などは多くの大学に設置されている。生き残りが激しくなり、国のバックアップが減る分、大学経営の自由度が増せば、「才能」の青田買いだって始まるだろう。本当に頭が良い子供のいる家庭にとって、時代はむしろ追い風だ。

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン