──国民的な議論なしに外交当局だけで合意をしても、非常に不安定で脆いものになってしまう。
松竹:だから、本来なら日韓首脳会談について、日韓のメディアはもっと報道すべきだったと思います。両国政府は「妥結」に向けて動きはじめた。ここからはこれまでのような、左右が互いに潰し合うための議論ではなく、「合意をつくる」ための建設的な議論が必要なのです。この局面で、メディアとしてどういう立場での報道をしていくのか。この20年間の対立構造をそのまま引きずっていくのか、それとも終わらせるために努力するのか。それを、日韓双方のメディアに問いたいと思います。
──そうした状況下で、先日は韓国で、『帝国の慰安婦』の著者、朴裕河さんが、元慰安婦の名誉を毀損したとして韓国の検察に起訴されたというニュースが飛び込んできました。
松竹:私自身は朴さんの本は非常に大切な内容が提起されていると好感を抱いていますが、それを抜きにしても、これまで以上に自由な議論を広げていかなくてはならないこの局面で、検察が一方の側の議論を封殺する行為に出たというのは非常な驚きです。韓国の検察や裁判所は、世論を扇動する機関に成り下がっているのでは、とすら感じます。
日本のメディアも、『帝国の慰安婦』への賛否を超えて、きっちりと批判すべき問題だと思います。同時に、これをきっかけとして、日本と韓国両国で慰安婦問題における合意を探ろうとする世論が盛り上がってほしいですね。(了)
◆松竹伸幸(まつたけ・のぶゆき):1955年長崎県生まれ。一橋大学卒。ジャーナリスト・編集者。かつて日本共産党政策委員会で安全保障と外交を担当する安保外交部長を務めるも、自衛隊に関する見解の相違から2006年に退職。現在は、「自衛隊を活かす会」、正式名称「自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会」(代表は元内閣官房副長官補の柳澤協二氏)の事務局も担っている。