山口組の分裂騒動は新たな局面を迎えようとしているのかもしれない。12月1日、五代目山口組・渡辺芳則組長の命日に六代目山口組の司忍組長が騒動勃発後、初めて姿を見せた。当日、その現場にいたフリーライターの鈴木智彦氏がレポートする。
* * *
タクシーを拾い、五代目の墓所から神戸市内にある長峰霊園に移動する。
「昨日長峰霊園にお参りしてきた。先人たちの眠る静謐な墓前にひざまずき、頭を垂れるのみであった」
分裂直後の定例会で読み上げられた司忍六代目の手紙、その冒頭に登場する場所だ。田岡一雄三代目の墓があり、隣接して歴代組長らの名を刻んだ組碑がある。こちらには実話誌の他、地元紙記者やテレビ局も集まっていた。兵庫県警や大阪府警など、警察関係者は30人以上だろう。
「こらハイエナ。怪我せんうちにやめとけよ」
直参の一人に声をかけられると、警察の視線が当方に集まるのがわかった。実はこの日、実話誌のひとつが山口組から取材拒否をされていたのだ。分裂や抗争事件になると、暴力団は明確に媒体を区分する。あそこは山口組側、ここは神戸側と選別される。山一抗争(*)の際もそうした事例はよくあった。
【*1984年、竹中正久組長が四代目を襲名したことに反発した反竹中派が「一和会」を結成。竹中組長は一和会に殺害されたが、山口組の報復が激化。1989年の一和会解散まで双方で25人の死者を出した】
一般マスコミが来訪していたのは理由がある。今日の長峰霊園には、分裂後、司忍六代目がはじめて姿を見せると言われていたのだ。実際、霊園には六代目山口組の執行部がフルメンバーで集まっていた。出迎えの先頭に立つのは六代目山口組の橋本弘文統括委員長だ。
司組長がやってくると、現場は騒然とした雰囲気になった。最高幹部に撥ね付けられながらカメラを構えると、ファインダー越しに和装の六代目が見えた。焼香する表情からはなにも読み取れない。わずか数分、一言も発さぬまま、六代目は霊園を去った。
直後、駐車場でどよめきが上がった。慶弔委員の田堀寛・名神会会長が、大阪府警に逮捕されたのである。墓参での逮捕は異例の事態だ。
「田堀会長が使う新車を、購入時に元妻の名義と偽って登録した容疑です。田堀会長は10月にも愛知県警に逮捕され処分保留になったが、この時、実は大阪府警とかち合っていた。大阪府警としては先を越された形になったので、今回は強引な逮捕になったらしい」(全国紙記者)
参考人として連行された組員が、所持品を他の人間に渡すと、大阪府警の刑事がそれを囲んで詰め寄る。
「おいおいおいおい、いま渡したもん出せって。ややこしなんで。ええねんな」
兵庫県警はあっけにとられた様子だった。
※週刊ポスト2015年12月18日号