11月25日、「村上ファンド」代表として知られた村上世彰氏(56)の長女・絢氏(27)が代表を務める「C&Iホールディングス」(東京都港区)に証券取引等監視委員会(SESC)の強制調査に入った。
かつて「モノ言う株主(アクティビスト)」として脚光を浴び、その後証券取引法違反で有罪判決を受けた村上氏は、逮捕から9年目となる今年に入って本格的に株式市場に再登場した。愛娘の絢氏らとともに量の株を買い進め、今年6月には電子部品商社「黒田電気」に対し、C&Iホールディングスが村上氏ら4人を社外取締役に選任するよう株主提案をするなど、アクティビストとして再び注目を集めていた。
今回、村上氏にかけられた容疑は金融商品取引法違反(相場操縦)。具体的には2014年6月から7月にかけて東証一部上場のアパレル大手「TSIホールディングス」(東京都港区)の株価を意図的に下げた疑いだ。
SESCがそうした行為の処分に関与した事例は過去に1件しかない。経済問題に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏が指摘する。
「2006年に香港の投資ファンドが日本航空株を大量に空売りして制裁金を科された1件のみです。しかもこの件でもSESCは香港の当局に情報を提供しただけで、自ら強制調査したわけではありません。実際には多くの外国ファンドが“見て見ぬふり”をされている」
ではなぜ、村上氏は見逃されなかったのか。村上氏について数々のレポートを発表してきたジャーナリストの高橋篤史氏は、背景に「当局の強い覚悟」があると説明する。
「今回の件は当局の口が堅く、マスコミは調査の成り行きを見守っています。ただし、SESCはもともと任意で調査する権利を持っています。にもかかわらず裁判所に捜査令状を取って強制調査に乗り出した以上、今後の刑事告発を視野に入れていることは間違いないでしょう」
そのSESCのキーマンとして浮上したのが事務局長を務める佐々木清隆氏だ。
「佐々木氏は東大法学部で村上氏の同期です。村上氏が旧通産省に入省する一方、佐々木氏は旧大蔵省から金融監督庁(現金融庁)に進み、IMF(国際通貨基金)など海外でも経験を積み、今年7月にSESCの運営を仕切る事務局長に就任しました。
かなりの洒落者で素肌にドレスシャツを合わせ、講演会にも積極的に参加するなど、官僚らしくない派手な人物ですが、仕事の能力を疑う人はいません」(前出・伊藤氏)
因縁は東大法学部の同期というだけでない。佐々木氏は2006年当時、SESC特別調査課課長として旧村上ファンド事件を現場で指揮した人物だ。