「認知症1000万人社会」の到来とともに、「認知症予備群」と呼ばれるMCI(軽度認知障害)患者も急増する見込みだ。
だが近年、認知症は生活習慣病の側面を大きく持つことが各国の研究データ等で明らかにされつつある。そのため生活習慣を見直すことで認知症を予防でき、MCIの症状が改善することがわかってきたという。
「MCIと診断した60代の男性患者は体を鍛えることが好きで、ウェイトトレーニングに励んでいました。
しかし、無酸素運動よりも有酸素運動のほうが脳神経を活性化させる。ウェイトトレーニングを週5日のウォーキングと週末の山登りに変えたところ、1年半後に症状が回復しました」(都内・認知症専門医)
運動が認知症予防に効果があるのは多くの研究等で立証されている。米ピッツバーグ大学の調査では、週3日、1回30分以上の運動をする人は、全く運動しない人と比べ、認知機能の低下が約40%抑えられたと報告されている。
その一方で、運動している人も認知症にかかっている。問題は運動の中身だった。
「汗ばむ程度の有酸素運動が脳の神経細胞を活性化させることがわかっています。実際に来院したMCI患者で定期的な運動を取り入れた人はMCIの状態を何年も維持し続ける傾向が強く、中には回復に向かう人もいる。
患者がスポーツジムや水泳教室に入会する際は三日坊主にならないよう、“見張り役”となるインストラクター付きの『前払いコース』に申し込むよう勧めている」(東海地方の脳神経外科医)
最近、認知症の専門家の間で注目を集めているのが「デュアルタスク」と呼ばれる運動法だ。「ウォーキングをしながら計算問題を解く」など、2つ以上のことを同時に行なうエクササイズである。
デュアルタスクを実践すると、MCIから認知症への移行リスクが減ると考えられ、記憶などの認知機能が改善することが国立長寿医療研究センターの研究で明らかになった。同センター・もの忘れセンター長の櫻井孝氏の話。
「10年に愛知県大府市在住のMCIになった高齢者約100人を対象に調査を行なったところ、運動に加えて計算やクイズ、ゲームなど頭で考える課題を組み込んだグループには、認知機能の維持・向上が見られたほか、脳の萎縮の進行も緩やかになったという結果が出ました」
有酸素運動によって脳血流が増加したことに加え、頭を使うことで前頭葉の働きも活発になり、脳の広い範囲が活性化したためと考えられている。
※週刊ポスト2015年12月18日号