プロ野球選手にとってオフ最大の行事である契約更改。球団事務所ではどんな交渉が行なわれているのか。選手、コーチ、フロントなど、各方面の球団関係者の証言を元にした再現ドラマをお送りしよう。
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球団本部長は朝から浮かない顔だった。今日交渉するT選手は制限いっぱいの40%減の予定なのだ。
入団8年目の外野手Tは昨年、3割35本90打点と大ブレイクし、1億円の大台に乗った。だが今季は.198、5本、24打点と大きく期待を裏切る。しかも週刊誌に女性スキャンダルを報じられる始末だった。
Tに、本部長はあえてビジネスライクに6000万円の年俸を言い渡した。Tは減俸こそ覚悟していたが、ここまでとは思っていなかったらしい。
「オレはいらないっていうことですかね!」と噛みついてきた。
「大幅減俸はやりたくない。皆昇給してあげたいが、そうはいかないんだ」
「だけどこれじゃ税金が払えませんよ。家のローンも組んじゃったし、子供の学費もある。来年にはもう1人生まれるんです」
選手がまず気にするのは、前年の収入を基準に課税される所得税、住民税といった税金である。泣き落としも更改の場では常套手段だ。本部長は心を鬼にしていう。
「公私にわたって遺憾なシーズンだったからだ。でも監督は必要だといってくれているんだ」
「期待を裏切ったのは申し訳なかった。でも殊勲打もあったじゃないか」
その後もゴネ続けたTは保留して部屋を出て、顔なじみの番記者に球団への不満を爆発させた。結局Tとの交渉は3度に及んだが破談、自由契約となった──。
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こんなストーリーがあったうえで、一つの考察を。契約更改では必ずゴネる選手が出て来る。はたして“ゴネ得”はあるのだろうか。元巨人の橋本清氏が語る。
「確かにある程度粘ればアップすることもある。でもゴネていいことはあまりない。先輩からは“モメると、ダメだった時に大幅に年俸を下げられたりトレードに出されるぞ”とアドバイスされたし、実際そういう人を何度も見てきました」
ちなみに代理人に交渉を任せても結果は同じ。
「むしろ代理人にはシビアになります。代理人がいればダウンが減る、なんてことになれば、皆が代理人をつけようとするでしょうからね」(阪神で球団社長を務めた野崎勝義氏)
※週刊ポスト2015年12月18日号