11月下旬の午前7時、福岡・博多港。晩秋らしからぬ暖かな日差しの中に巨大豪華客船が入港してきた。高さ62.9mは16階建てマンションと同じ高さ、世界第2位の総トン数を誇る『クァンタム・オブ・ザ・シーズ』である。
音楽ホールや展望カプセル、カジノを備え、船上サーフィンも楽しめる豪華客船の乗客は、ほとんどが上海から乗り込んだ中国人。その数、実に4000人超。今年6月の初寄港以来、毎月2~3回のペースでやって来ている。下船する彼らを港で待ち構えるのは、100台を超える大型観光バス。福岡など九州地区はもちろん、広島ナンバーのバスまで馳せ参じている。
「太宰府にも行くけど、観光や食事を楽しむ時間はないわ。目的はその近くにある免税店。昼食は名物の梅ヶ枝餅をバスの中で食べる予定。またすぐ別の免税店に移動しなきゃいけないから」(中国人女性観光客)
鬼気迫るものを感じるのには理由があった。この日の出航は午後7時。列をなす出入国の審査に時間がかかるため、滞在時間は9時間足らず。まさに「爆買いのための弾丸ツアー」である。
ツアーのクライマックスは、福岡・天神にあるショッピングモールの家電量販店。免税店というだけあって、客はもちろん店員も中国人ばかり。店内では大音量の中国語が飛び交い、知らずに店内に入った日本人の高校生カップルが、「ここ、中国かよ?」と冗談交じりに呟き、呆れてすぐに店から立ち去った。
「今日みたいに1日何千人もの中国人が来る日もありますよ。店内は揉みくちゃ状態です」(中国人の店員)
買い物リストを片手に家電製品のほかに陳列されるストッキングやクッキーなどの安価な商品を10個、20個とばんばん買い物カゴに入れる。
客船の往復料金は1人最低約10万円。かげりが出始めたといわれる中国経済だが、その異常な購買意欲はいまだに衰えを知らない──。
※週刊ポスト2015年12月18日号