イスラム国によるテロの標的となったフランスをはじめとする欧米各国でいま、極右の政党・指導者が着実に支持を広げている。
12月にフランスで行なわれた地域圏議会選挙の第1回投票で、マリーヌ・ルペン党首率いる極右政党・国民戦線(FN)が得票率トップの28%を獲得。東京外国語大学大学院総合国際学研究院の渡邊啓貴・教授は「デンマークでは国民党、ノルウェーでは進歩党、フィンランドでも真正フィン人党など、排外主義を掲げるポピュリズム勢力が議席を少しずつ伸ばしています」と指摘する。
さらには、アメリカでも、「イスラム教徒の入国を全面的に禁止すべきだ」などという排外的な主張で強烈な存在感を見せている不動産王のドナルド・トランプ氏が来年の大統領選に向けた共和党の候補者レースを独走している。
排外主義は畢竟、自国の利益だけに注力し、国際協調を軽視する外交となる。過去の米国の「モンロー主義(※注)」がその典型だが、そうなれば各国の対立もより深まることが懸念される。
【※モンロー主義/第5代アメリカ大統領のジェームズ・モンローが19世紀に掲げた外交原理。アメリカとヨーロッパの相互不干渉を提唱した。広義には、他国と外交政策上かかわらないようにする「孤立主義」を指す】
コラムニスト・小田嶋隆氏はこんな言い方をする。
「アメリカやフランスなどは、建前として多文化主義や宗教的な平等を保証する理念が尊重されていた。そこにトランプ氏やルペン氏が登場し、少なくとも無視できないくらいの勢力になれば、指導者はその声に左右されるようになる。リーダーが排外主義の世論に踊らされる状況が生まれます。
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領の綱引きがすでにそうなっているともいえますが、本当は衝突は起こしたくはないが、強硬姿勢を見せないと国民の支持を維持できなくなっている。
安倍政権も似ています。現実問題として中国や韓国を敵に回したくはないが、保守政治家としてのイメージもあって支持率維持のためには対中対韓で強硬姿勢を見せなければならないとの認識になってしまう」
極右が勢いを増せば増すほど、指導者同士がより強硬な姿勢を競い合うチキンレースになってしまうのだ。それが武力衝突につながるケースも想定できる。