広島県東部の高原にある、がれきが積みあげられた一角。1匹の犬がコンクリートのかたまりを登り、土管に隠れた人を見つけると、大きな声で吠える。
「ワシは、夢之丞。ええ名前じゃろう。災害現場で被災しんさった人を捜すんが仕事じゃ」
今でこそ、たくさんのスタッフや同僚の犬たちと過ごしている夢之丞だが、5年前は動物愛護センターでふるえていた、殺処分直前の子犬だった。
「もうあきらめかけたとき、ピースウィンズ・ジャパンの人が来て、助けてもろうたんよ」
ピースウィンズ・ジャパンは、災害直後の現場などで支援活動を行う組織。活動の一環として災害救助犬を育てようとセンターを訪れ、夢之丞と出会った。
「そのときのワシはいわゆる人間不信で、誰とも一緒におれんかったんよ。訓練を通して『ワシにもやれることがあるんじゃないか!?』と思うようになって」
昨年8月には、広島で起きた土砂災害の現場で行方不明の男性を発見。12月には台風被害を受けたフィリピンへ行き、今年はネパールへも渡った。
「新聞やらテレビで取り上げられてちぃと恥ずかしい気はしたんじゃけど、ワシが頑張ることで処分される犬が減ったり、どがぁな犬でも救助犬になれることを知ってもらえりゃあ、ええ思うたんよ」
そう言う夢之丞の瞳は、未来への希望で輝いている。
【プロフィール】
名前:夢之丞 ♂
年齢:5歳
種類:犬(MIX)
勤務先:特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン
職種:災害救助犬
主な仕事内容: 災害があった地域へおもむき、がれきや土砂の中から人を捜し出すこと。
お給料: ドッグフードと鹿肉。ごほうびは大好物の“ちーかま”。
好きなこと: ドッグランを駆けまわるなど、体を動かすこと。ドライブ。
嫌いなこと:カメラのレンズの動き。
現在の悩み: 片思い中の女の子(犬)が、なかなか振り向いてくれないこと…。
将来の夢:生存者の発見。
※女性セブン2015年12月24日号