華やかな「銀幕」の裏には、俳優たちを格付ける明確な序列がある。浮き沈みの激しい人気商売ならではのシビアなしきたりを、映画批評家の前田有一氏が有名作品の事例を通して繙く。
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日本の映画界では、伝統的に俳優の序列が厳しく守られてきた。高倉健や菅原文太が大活躍した1950~1960年代は、東映や松竹などの映画会社に、俳優が所属していた時代。
当時は会社の影響力が強く、会社側がその実績や会社への貢献度で俳優をランク付けするのが習わしだった。トップスターとなった後の高倉健でさえ、東映では先輩の鶴田浩二より上の扱いを受けることはなかった。
そうした序列は、作品の最後に流れるエンドクレジットなどで、いまなお厳格に守られている。観客はあまり意識することはないだろうが、映画関係者はここに注目する。その順序を間違えたら、もめる要因になるからだ。
特に厄介なのは「ダブル主演」の作品。アメリカでも事情は同じで、例えば往年の2大スター、ポール・ニューマンとスティーブ・マックイーンの2人が主演した『タワーリング・インフェルノ』(1974年公開)では、クレジットやポスターでの序列を巡り大いにもめたという。
画面左に表示されるのが格上なのだが、マックイーンを左に配した代わりに、右のニューマンを少し上にずらして表示する、という苦肉の策を講じた。これにより双方からクレームが出ないようにした。
日本でもエンドクレジットでは、最初に登場する人物が主役で、最も格上だ。その後、準主役級が2番目、3番目と表示され、さらにその他の出演者が続く。途中、間隔を空けたり、線で仕切られるなどして「ピン扱い」される中堅役者もいる。最後は、出演者の中でも特にベテランの大物が表示されるのが慣例だ。
これはもともと「一枚目=主役」「二枚目=色男」「三枚目=道化」「トメ=座長」というように、並び順が序列を示した歌舞伎の「看板」の順序を踏襲したものである。
また、オールスターキャストが多い脚本家・三谷幸喜の映画作品では、エンドクレジットが五十音順や登場順になっていたりする。三谷作品は大物が多数登場する、いわゆる「グランドホテル」形式が多く、序列をつけるのが難しいからだと思われる。
※SAPIO2016年1月号