「ソーシャル視聴」といえば、テレビ番組を見ながら携帯やスマホ、パソコンからTwitterやFacebookを使って番組内容を実況したり感想を投稿したりするものだが、『NHKのど自慢』では今、新たな楽しみ方が広がっている。
その多くは、出場者をさまざまな「枠」にあてはめるというアプローチだ。
番組には幅広い年代はもちろん、兄弟・同僚・同級生など、いろいろな出場者がやってくるが、そうした振り幅のある選考は、番組が意識して行っていると言われている。
その中でほぼ毎回存在するのが「中学(高校)生枠」、「お年寄り枠」、そしてゲスト歌手の持ち歌を歌う「ゲスト枠」だ。最近では時代を反映してなのか「介護職枠」も多いが、番組を見ているネットユーザーはそれら「枠」の概念をさらに飛躍させて、その出場者にぴったりの「枠」の名称を自分たちで考え出し、楽しんでいるのだ。
例えばある日の放送。新婚カップルが、青と白のボーダーのペアルックで登場すると、視聴者の1人は「獄中婚枠」と書き込んだ。さらにまた別の者は「ウォーリーを探せ枠」と表現していた(実際のウォーリーは赤と白だが)。
また、丸坊主の少年には「カツオ枠」など、アニメのキャラクターになぞらえたり、プロ野球・福岡ソフトバンクホークスの内川聖一選手を思い浮かべ、「内川枠」と実在の人物に置き換えて書き込んだりもする。
ラジオ番組でいうところの「ハガキ職人」ならぬ彼ら「ツイート職人」たちは、出場者のたたずまいや雰囲気から「人物背景」を自由に想像することもある。
例えばここ1年の間に見かけたツイートから挙げると、「歌は上手くないけど雰囲気と声質で上手く聴かせる枠」「毎晩スナックで練習してます枠」「マタニティマーク無くても席譲られちゃう枠」「道の駅即売コーナーのパートさん枠」と、まさに「イメージ」だけで書きこんでいる。
さらに幼なじみの女性2人が登場したときには「数年後ブティック共同経営して揉めそうな枠」といったものもあった。つまりは大喜利の一つである「写真で一言ボケる」にも似た投稿を、テレビを見ながら行っているのである。
枠以外では、これは特に巨大掲示板で見られる類いのものだが、「次の子、俺の彼女だよ 」であるとか、「高校一年の時告白されてつき合ってる 」といった、おそらく妄想であろう書き込みも見られる。
これら多様なツイートが次々と書きこまれる理由として、この番組がゆったりとしたテンポで進むものであり、1人ないしは1組の出場者がある程度の時間、画面に登場することから、視聴者もいろいろ想像をふくらませて書き込める余裕があるのではないか。
また制作者も、そうしたネットでの盛り上がりを意識しているのであろうか、今年4月から、開催されている地域名、そして今歌われている曲名をテロップでわかりやすく表示するなど、ひと工夫を加えるようになった。さらにはゲスト歌手に、従来の演歌系のみならず、声優で歌手の水樹奈々や、人気バンド・ゴールデンボンバーといった、若者に支持の高いアーティストを積極的に起用するようになっている。
ラジオ放送から数えると70年という驚異の放送年数を誇る『のど自慢』。そんな古き良き番組とネットとの親和性が高いというのは少々意外だが、こうした「単純にテレビを見る」のではなく、「テレビを見ながら自由に遊ぶ」というのは、今後別の番組でも広がっていくだろう。そして、「テレビ離れ」というより、最初から「テレビに関心がない世代」が誕生していると言われている中、こうした「ツイート職人」ともいうべき新たなネットユーザーのテレビへの参加の仕方は、ますます広がっていくのかもしれない。(放送作家/内堀隆史)