中国で、とある「韓流・抗日映画」の人気に火が付いた。その裏には、巨大な中国市場を狙った韓国側の“戦略”があるという。在韓ジャーナリストの藤原修平氏が解説する。
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植民地下の朝鮮での独立運動を描いた抗日映画『暗殺』。韓国で2015年夏の話題を独占して歴代7位の観客数を記録したが、約1か月半遅れの9月17日に封切られた中国でも大ヒットした。
中国での興行収入は、封切から2週間後の9月30日の時点で4460万元(8億5792万円)の歴代3位。上位2本の記録を凌ぎそうな勢いだと報じられた。
中国で最近、公開された韓流映画といえば、文禄・慶長の役(韓国名・壬辰倭乱)での朝鮮側の英雄・李舜臣(イスンシン)の活躍を描いた『鳴梁(ミョンリャン)』がある。しかし、同作は韓国で歴代最高の観客数を叩き出したにもかかわらず、中国での興行収入は約2700万元(5億2940万円)に留まり、いまひとつ伸び悩んだ。
中国は、韓流ファンが多いにもかかわらず、韓流映画の輸出では大きなマーケットとはなっていない。今回の『暗殺』の大ヒットは、韓国映画界にとってまさに起死回生となった。韓国在住の映画ライター土田真樹氏が語る。
「日本を悪として描く、“抗日”というテーマが中国人にもわかりやすかったんです。それに、大韓民国臨時政府が置かれた上海が舞台であるところも、中国人にアピールしました」
中国人のネットへの書き込みを見ると、「最高の抗日映画」、「韓国映画がいかにアジアを席捲しているかを目の当たりにした」など絶賛の嵐だ。
だが、人気の秘訣はそれだけではない。
「主人公を演じた全智賢(チョンヒジョン)は中国でサムスンのスマホCMにも出ていて“韓国美女”の象徴的存在。さらに、王智賢という華僑系の本名のために父親が台湾籍だとの噂が絶えません。『暗殺』は中国人の心をくすぐるよう、戦略的にキャスティングされていたと言えます」(前出・土田氏)
スクリーンに現れる“韓国美女”の姿は、戦後70年が過ぎた今でも「悪しき日本に抗う聖なる戦士」と映ったに違いない。
※SAPIO2016年1月号