2015年の日本経済は、為替が1ドル=120円台前半を維持し、日経平均が約2000円上昇して2万円台に接近した1年だった。爆買いや中国経済など、2016年の経済を左右する諸要素を、ぐっちーさんこと投資銀行家・山口正洋氏、慶應義塾大学ビジネススクール准教授・小幡績氏、双日総研チーフエコノミスト・吉崎達彦氏らの3人の経済論客が意見を戦わせた。
吉崎:心配なのは、中国経済の減速くらいですよ。中国の需要減で鉄鋼業界は大変ですが、だからといって中国人の「爆買い」が減るわけではない。インバウンド(訪日外国人客)はもともと800万人規模だったのが、2015年は1900万人超えが確実視され、アウトバウンド(日本人の海外旅行客)を逆転する見通しです。
たとえば静岡空港は「誰も使わない」とボロクソに批判されてきましたが、今は中国便を中心に週47便も飛んでいる。それも西安、武漢、長沙といった内陸部から。観光バスまで足りなくなっていて、この傾向は当分続くんじゃないかな。
山口:だって中国には年収3000万円超の人口が日本の総人口とほぼ同じ1億人いるんですよ。多少経済が減速しても、ケタが違うんだから、なくなるわけがない。
小幡:中国経済は二重構造になっていて、これまでは世界の工場として発展し、中所得者が増えて世界の消費地になったが、今はそのモデルから成熟経済への移行期にある。世界の低価格工場、大量消費地という部分は縮小しつつあり、ハイテク企業の勃興、高所得者のサービス消費が台頭している。このような構造転換と整合的な政策として、人民元をIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)構成通貨にして国際通貨とするなど、着々と成熟国家を目指している。
山口:その通り。移行期にあるから、確かに沈んでいく材料を見れば中国経済は「悪い」となるけど、進んでいるところは日本よりはるか先に行っている。アシックスの「メタラン」という最高級のランニングシューズがあって、1足3万円近くするんですが、その売り上げの80%は中国人だそうです。日本人がなかなか手を出せないのに、中国人にはバカ売れなんですよ。
小幡:えー、中学生の時からアシックスファンだけど、知りませんでした。
山口:日本はインバウンドを増やそうとしているけど、その前に泊まるところを何とかしろよといいたい。外国人のお金持ちが泊まるようなホテルは本当に少ない。だいたい彼らは日本でどれくらいお金を使う気で来るか知っていますか?
吉崎:100万円くらい?
山口:1日で、ね。なのに日本では彼らの消費意欲を理解していないから、彼らを満足させられるホテルも限られている。インバウンドを増やそうと会議を重ねている日本人はお金持ちとは無縁の連中ばかり(笑い)。