言葉は生き物。当然ながら中国でも「流行語」は日々生まれている。現地の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が解説する。
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2015年の幕が閉じようとする中国では、やはり今年も各メディアが「2015年の流行語」を発表した。ベストテン方式が多いなか、どのランキングにも入ってくるいくつかのワードを紹介しながら中国の一年を軽く振り返ってみよう。
まず「剁手党」である。本来は鉈のようなもので切り裂くことを意味する言葉だが、流行語としての使い方は「ネットショッピング中毒者」である。
中国で「独身の日」と呼ばれる11月11日はネット通販サイトが大安売りをするイベントデーだが、2015年、ネット通販最大手のアリババ集団は1日で912億元(約1兆7000億円)を売り上げて大きな話題となった。対前年比で60%増の記録だったというが、こうした驚異的な売り上げに貢献したと考えられるのが「剁手党」だということだ。中国人の購買力の凄まじさは、”爆買い”を目の当たりにした日本人にも理解されるはずだ
また若者が中心になって流行を生み出した言葉としては「顔値」(顔面偏差値)や、「宝宝」がある。「宝宝」は、驚いたときに使う言葉として広く世代を超えて広がったが、とくに意味はないという。
そして注目は「互聯網+」、「獲得感」、「創客」の三つの言葉。いずれもランキングのベストスリーに定着している。
最初の「互聯網+」はインターネットを意味する「互聯網」に「+」を付けたことで、インターネットを使ったイノベーションによって新しい経済発展状態を生み出すことを意味している。2015年3月5日に李克強首相が「政府活動報告」のなかで使ったのがルーツである。
国の指導層から生まれた流行語という意味では「獲得感」も同じである。こちらのルーツは習近平国家主席で、2015年2月27日の党中央全面深化改革領導小組第10回会議である。この言葉の意味は比較的想像し易いものだが、国民が獲得できる満足感の指標のように考えられている。日本でかつて流行った「CS(顧客満足度)」にも似ている。
そして最後は「創客」である。イノベーションを意味する「創新」に「客」を加えて、イノベーションによって自分人生を劇的に変化させることに成功した人を指し使われる。
興味深いのは、この言葉も生みの親が李克強首相で、最初に発せられたのが2015年3月5日の「政府活動報告」だということだ。
いずれも習近平指導部が重視する政策――産業界にとってはイノベーションが、政治的には民生重視が――を色濃く反映されていることが理解できる。