国内

石田衣良氏「感謝の言葉で洗脳し正義に酔う感じは気持ち悪い」

「社会の無関心化が進んでいる」と石田衣良さん

 NEWSポストセブン恒例の直木賞作家・石田衣良氏の年頭インタビューをお届けする。2015年、社会のタコ壺化が進んでいる。(取材・構成=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 昨年、文学界から出て社会現象にまでなったのは、又吉直樹さんの「火花」が芥川賞を獲り、260万部というベストセラーになったことでしょう。何年かに一度、人々の間に純文学を読みたいという欲求が溜まるときがあって、そのマグマのガスに火がついたと思います。もともと又吉さんが芸人で読者家というのも広まっていましたから。

 又吉さんはリリー・フランキーさんみたいに「当て逃げ」じゃないので(著書「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」が大ベストセラーになった)、たんたんとこれからも書いていかれるんじゃないですかね。(又吉さんの多額の印税も話題に)私も経験ありますが、「あ、なるほど」という感じであまり現実感がないんですよ。すぐには大きな買い物はしなかったですね。

 又吉さんは来年が大変じゃないかなあ。今年の印税に対する税金だけでなく、再来年分も予定納税しろっていわれるので、来年は2年分の税金を払わされることになります。

 それにしても芥川賞を同時受賞した羽田圭介さんとキャラクターが交替して面白いね。又吉さんが文化人寄りになって、羽田さんが芸人寄りになってさ。最近の芥川賞受賞者はキャラクターの濃い人が出ていますけれど、みんなここで名前を覚えて貰わないと一生のチャンスを棒にふりかねないので、受賞の挨拶でも編集者から「ちょっと一発、勝負かけてください」みたいにプレッシャーかけられてるみたいですね。

 あと水木しげるさんや野坂昭如さんのような戦中派の方が亡くなられました。野坂さんとお会いしたことはないですが、もう「火垂るの墓」のような作品は出てこないんだろうなあ。実体験がないと書けないですからね。これからは実体験を二次体験したような、エキスを抽出したものが増えるんでしょうねえ。またそういう人工甘味料みたいな作品の方が受けたりしますが……。

 ただ強烈な実体験さえあれば書けるか、というとそうでもない。川端康成は戦争中に鹿屋に行ってるんですが(注・特攻隊の基地があったところ)、そこで特攻隊の兵士たちと食事して、泣きながら「君たちのことをいずれ書くから」と約束しているんですが、筆が持てなかったんだよね。そういうものは本当は作品化するのが難しいのかも知れない。そういう難しさをすっとばして参考書を読んでさらっと書けちゃったものの方が世の中に受けたりする。フェイクでない第二次世界大戦の体験をどう捉えていくのか、みんなの課題でしょうね。

 私も昨年12月に新刊「逆島断雄と進駐官養成高校の決闘」(講談社)を出しました。これは近未来の極右の士官学校を舞台にした小説です。中途半端な保守から先の行ききった世界を書いてみたかったのと、少年漫画の物語のルーティンのようなものを試したかった。

 で、この小説を書いていて、例の安保法案をめぐる流れが二次創作の世界のように感じたんです。政府も反対している側もリアル感がないんですよ。戦うこととか戦争に対して。本当の怖さを感じないまま、ある理念の中で小さく争っている。デモに何万人集まったと聞いても、興味の無いアーティストのコンサートに人がたくさん集まったのと変わらないように、その雰囲気が外に届いていない気がするんですよね。これは無関心の時代が進んだこともあります。お互いが相手のいうことに耳を貸さないで、タコ壺化している。誰かが興味あることでも他の人には興味が無い。

関連キーワード

関連記事

トピックス

幕内優勝力士に贈られる福島県知事賞で米1トンが
「令和のコメ不足」の最中でも“優勝したら米1トン”! 大相撲優勝力士に贈られる副賞のコメが消費される驚異のスピード
NEWSポストセブン
愛子さま
愛子さま、日赤への“出社”にこだわる背景に“悠仁さまへの配慮” 「将来の天皇」をめぐって不必要に比較されることを避けたい意向か
女性セブン
「学園祭の女王」の異名を取った田中美奈子(写真/ロケットパンチ)
田中美奈子が語る“学園祭の女王”時代 東大生の印象について「コミュニケーションスキルが高く、キラキラ輝いていた」
週刊ポスト
羽生結弦(時事通信フォト)の元妻・末延麻裕子さん(Facebookより)
【“なかった”ことに】羽生結弦の元妻「消された出会いのきっかけ」に込めた覚悟
NEWSポストセブン
目覚ましテレビの人気コーナー「きょうのわんこ」(HPより)
『めざましテレビ』名物コーナー「きょうのわんこ」出演犬が“撮影後に謎の急死”のSNS投稿が拡散 疑問の声や誹謗中傷が飛び交う事態に
女性セブン
シャトレーゼのケーキを提供している疑惑のカフェ(シャトレーゼHPより)
【無許可でケーキを提供か】疑惑の京都人気観光地のカフェ、中国人系オーナーが運営か シャトレーゼ側は「弊社のブランドを著しく傷つける」とコメント 内偵調査経て「弊社の製品で間違いない」
NEWSポストセブン
神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝『旅サラダ』残り2週間》謹慎中のKAT-TUN中丸雄一、番組復帰の予定なしで「卒業回出演ピンチ」レギュラー降板の危機も
NEWSポストセブン
小泉進次郎氏・滝川クリステル夫妻の出産祝いが永田町で話題
小泉進次郎夫妻のベテラン議員への“出産祝い”が永田町で話題 中身は「長男が着ていたとみられるベビー服や使用感のあるよだれかけ」、フランス流のエコな発想か
女性セブン
稽古は2部制。午前中は器具を使って敏捷性などを鍛える瞬発系トレーニングを行なう。将来的には専任コーチをつけたいという
元関脇・嘉風の中村親方、角界の慣習にとらわれない部屋運営と指導法 笑い声が飛び交う稽古は週休2日制「親方の威厳で縛らず、信頼で縛りたい」
週刊ポスト
柏木由紀と交際中のすがちゃん最高No. 1
《柏木由紀の熱愛相手》「小学生から父親のナンパアシスト」すがちゃん最高No.1“チャラ男の壮絶すぎる半生”
NEWSポストセブン
今年8月で分裂抗争10年目を迎える。写真は六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「宅配業者を装って射殺」六代目山口組弘道会が池田組に銃口を向けた背景 「ラーメン組長」射殺事件の復讐か
NEWSポストセブン
小泉進次郎元環境相と妻の滝川クリステルさん(時事通信フォト)
滝川クリステルの旧習にとらわれない姿勢 選挙区の横須賀では「一度も顔を見せないのはどうか」の声、小泉進次郎氏は「それぞれの人間性を大事にしていきたい」
女性セブン