NEWSポストセブン恒例の直木賞作家・石田衣良氏の年頭インタビュー(続編)をお届けする。2016年はなにか新しいことを始めるラストチャンスの年に。(取材・構成=フリーライター・神田憲行)
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2016年の今年は人々の関心のタコ壺化、無関心、格差がまだ続く。ベルリンの壁崩壊以降続くグローバリズムが続いて、そのむき出しの顔が年々少しずつ露わになってきているというのが今の世界なんだな、という気がします。
安倍政権の支持率が上がっていますが、アベノミクスは日銀に金融緩和させただけがメインで、他に新しいものは出てこないですね。一億総活躍大臣みたいなお笑いが出てきたぐらいで。ああいうネーミングは臭いんですが、新しい保守層は文化的にロウワーなので、臭いわかりやすいネーミングがいいんですよ。都市のインテリ層に食い込む話は要らない。お笑い文化的なものとか、わかりやすいくだけた言葉に政治家も寄り添ってきている気がします。
2016年はみんなで新しいことに取り組む最後の年になると思います。2017、18年はオリンピック前の谷間の年になると思うので。だいたいオリンピックの前の年にマーケットとか景気がピークを付けることが多いらしいんですよね。だから2019年はオリンピックで盛り上がって、また落ちていく。2017年はその盛り上がり前の谷になるでしょう、消費税も上がるし。その谷の前の2016年は、景気が悪いけれどなにか新しいことを起こすオリンピック前のラストチャンスです。
私自身でいえば、2015年から有料のメルマガを始めました。これはライブをしているような感覚です。小説家は本の構想を持ってから1年、書くのに1年、紙の本になるのが半年ぐらい。つまり考えを持ってから具体化するまで2年半かかるんです。メルマガだといまさっき起きたテロの話もできるし、読者と人生相談もできる。ひとつ読者とつながれるチャンネルが出来たみたいで面白いですよ。
まだ会員数はそんなに多くはないんですが、毎月ひとりの読者が払ってくれる購読料の中から私が受け取る金額は、私の文庫本を6冊ぐらい買った印税程度に相当します。つまり会員数が1000人だと毎月文庫が6000冊売れていることになる。会員が2000人なら文庫が毎月1万2000冊売れていることになりますから、普通の作家ならこれだけで食べていける勘定になる。
私がメルマガを立ち上げたのは、作家と読者の関係がもっと近くにならないいけないという問題意識があったからです。今までの出版社は「良い本」を作ることに熱心ですが、できあがるとあとはせいぜいサイン会を開くぐらい「野となれ山となれ」でした。出しっ放しで、たまたま当たれば「ああ良かったな」という。
でもAKBを見ていればわかると思うんですが、今は売り方が大事なんですよ。純粋に音楽だとか芸だけ見せて食べていくのは難しい時代です。いろいろ批判もありますが、握手券とかよく考えられていますよね。
オリンピックの年までの大局観を持ちつつ、新しいことにチャレンジする。2016年はそういう生き方です。